水晶宮のレディ・エルム 5
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「おい、お前たち、そこで何をしている!!」
「うひゃあ、おまわりだぁ〜〜〜」
「い、いいいいえ、別に俺たちは何も・・・・・・・」

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「うっそぉ〜〜!?」
午後の光を浴びて輝く水晶噴水の広場に、アリエスの叫びが響きわたった。
「うそじゃないってば!だって現に、この会場にも家にもセシルはいない、その上であんな手紙が届いてるんだよ!」
「でもさ、アンタのいうとおりだとしても、やっぱり時間的に矛盾があるわ」
「僕もそう思うけど・・・・これから誘拐する予定で手紙を投げたとしたら、犯人は複数犯ともいえるんじゃないかな」
話しているうちに、だんだん脳みそが煮詰まって重たくなってくるような感じがする。しばらく二人で、ああだこうだと首をひねっていたのだが。

「・・・こんな事件になっちゃ、あたしたちの手には負えないわね・・・。そろそろ協会に依頼も来てる頃じゃないかしら。しょうがないからあたしたちも行って、最初っから全部話してみましょう」
「・・・そうだね・・・」
こんなおおごとになってしまった責任は、セシルを連れまわした自分たちにもある。二人は暗〜い気分で、とりあえず何か情報が聞けるかもしれないと、ウェストン家に向かうことにした。






てっぺんに鉄の棒が埋められた、高いレンガの塀が延々と続く。さっきも歩いたはずの同じ道が、今のエリックには倍に感じられた。
「裏口って、まだなの〜〜?」
「あ、そこの角を曲がってもうちょっとだよ」
裏口を知らなかったアリエスの前を歩いていたエリックは、曲がり角を出たとたん、ばふっと誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて顔を上げると、見覚えのある長身。倫敦ではまず見かけない不思議な形のマント。
「ヴァージル!!」
「で、出たわね!!」

「・・・・泣いてる・・・・・帰りたいって・・・・」
ヴァージルは、いつもと変わらず唐突でマイペースだった。最初はとまどった、そんなヴァージルのペースにも大分慣れてきたエリックは、冷静に聞き返してみる。
「泣いてるって・・・・誰が?」
「・・・・女の子・・・ちいさな子が、迷い込んでしまったんだ・・・」
エリックとアリエスは、思わず顔を見合わせた。
「それってまさか・・・」
「セシルちゃん!?」
「・・・・・・・知り合いなの・・・・?」

ワラにもすがりたい気分だった二人は、思わずヴァージルに詰め寄って、マントの端を握りしめた。
「僕たち、女の子を探してるんだ!」
「もしかしたらその子かも知れないの!!」
「どこにいるの!?」
「どこにいるのー!?」
すごい勢いで二人が迫っても、ヴァージルは少しも驚いたり、後ずさったりする様子がない。
「・・・・精霊界に・・・・・」
「精霊界?」
聞き慣れない言葉だった。
「・・・・一緒に来るかい・・・?」
ヴァージルが関わっている以上、普通の事件ではないことは明らかだし、精霊界とやらもとんでもない所に違いない。

「でも、もしもそれがセシルだったら、僕たちが探さなきゃならないんだ」
「そうね。セシルちゃんは、あたしたちの依頼人だもの!」
「・・・・いいのかい・・・・・?」
二人は覚悟を決めて、うなずいた。
「「うん!!」」
一生懸命な二人の様子に、ヴァージルは微かに笑ってくれた。なんにも根拠はないけれど、絶対だいじょうぶ、そう思わせてくれる柔らかい笑みだった。
「それじゃ、行こうか・・・・」
そう言ってヴァージルは、思わずヴァージルの顔に見とれていた二人の横をふいっと通り過ぎて歩きだした。慌てて二人も、小走りにヴァージルの後を追う。
「ね、行くってどこへ?」
「精霊界ってどこにあるの??」
「・・・・正確に言うと・・・・」
ふわふわと歩きながら、ヴァージルは少しずつ話してくれた。

「・・・入り口があるんだ・・・精霊界への・・・・。精霊界っていうのは、ここ・・・・ヒトの世界と表裏一体の、精霊たちの世界・・・。悲しいけれど、今この街に住まう人間たちは、彼らの存在を感知できない・・・・・。でも本当に純粋な心を持つ、例えばコドモのような人間はそうじゃない。彼らの存在を信じることで、彼らとココロを通わせることもできるんだ・・・・。そして、彼らの世界への入り口を見つけてしまうことも・・・・・」

(・・・あたし、精霊とかを、ホントは信じてるのかしら・・・。「コドモ」で「純粋」なのって、たぶん悪いことじゃないわよね・・・)
(・・・っていうかさ、ヴァージルと一緒にいたら、イヤでも信じないわけにはいかないじゃないか・・・)
とぎれとぎれにヴァージルが話す、その言葉をかみしめて、エリックとアリエスはなんとなく無口になってしまった。気がつくと、ヴァージルを先頭にした三人は、いつの間にかハイド・パークへ続く大通りを歩いていた。
「あれ?ヴァージル、こっちへ行ったらハイド・パークだけど・・・?」
「・・・うん・・・・。こっちの方に、ある・・・・気がする・・・・」
「・・・ね、エリック、もしかして・・・・」
「うん。たぶん、水晶宮だね・・・」

来た道の逆戻りで、大通りから散歩道、会場前の広場へと、ヴァージルはふわふわと歩いてきた。そしてそのまま、迷わず通用口へ突っ込んで行く。
「よお、今日は行ったり来たり、忙しそうだねぇ!!」
警備員がエリックとアリエスに声をかけた。相変わらずヴァージルは、不思議なことに、警備員には認識されていないようだった。どおも〜、ととりあえず手を挙げてあいさつし、二人はヴァージルの後を追う。
メインストリート───身廊をまっすぐ奥へ。交差点の水晶噴水の後ろには、高いドームの天井に届きそうなほど大きなニレの木が、間隔をあけて3本並んでいる。水晶宮ができる・・・・いや、この土地がハイド・パークと名付けられるずっとずっと昔からここにあって、倫敦の街を見守ってきた3本のニレの木。
そのうちの一番大きな木のそばで、ヴァージルはやっと足を止めた。

「・・・・・この、木・・・・・・・、ここに・・・・・・・・。」

 

 


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やっとヴァージルさん出てきました。相変わらず最強天然です。一般人に「認識されない」のは『プライマリィ〜』に引き続いての自分設定なんですが・・・ゲームしてるとそんな気になりません?どうしてみんな、ヴァージルさんの格好その他にツッコミ入れないんだ!!って。
(2002.08.23  ....UP)

 

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