水晶宮のレディ・エルム 4
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「あ、アニキ、早かったスね〜。これから『例のトコロ』へ行こうかと・・・・」
「おい、ガキはどうした!!戻ってるか!?」
「は、はい〜〜〜?」

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・・・ざわざわ

          ざわざわざわ・・・




たくさんの人が行き交う。老若男女、紳士に子供たち、さまざまな階層の人間たち。
「う〜〜〜〜、セシルちゃ〜〜ん・・・・」
アリエスは、もう小一時間ほどもここ『水晶噴水』の前で立ち尽くしていた。
半ば予想していたことではあったが、セシルとはぐれてしまったのだ。近くで見つかりそうになかったので、約束どおり待ち合わせ場所にやってきたのだが・・・。

「ダメだよ、やっぱり会場にはいないのかも」
あちこちを駆け回っていたエリックが戻ってきた。
「一応、出口の係の人にも聞いてみたんだけど、入り口と違って一人一人見てるわけじゃないし、これだけのお客さんの数じゃ覚えてないって言われたよ」
セシルくらいに賢い子なら、はぐれたとわかったら、水晶噴水の場所を人に聞いてやって来るくらいのことはできるだろう。それとも、一人で夢中で会場を見て回っているんだろうか?
「おかしいわね〜」
「おかしいね!」


「やっぱり僕、セシルの家を見てくるよ。もしかしたら、帰ってるかもしれないし」
「うん・・・・。家にいたらいたで、依頼をすっぽかされたみたいでヤな感じだけど、とりあえず居場所を見つけないとね。じゃあエリック、頼んだわよ!あたしはここで待ってみるから」

できれば依頼人とのトラブルは避けたいなぁと思いながら、エリックは会場を後にした。






高台の、高級住宅地。ウェストン家は、以前ちょっとした事件で知り合ったブレイク老の屋敷の向かいにある。両家ともかなりの規模の敷地を有していて、塀と生け垣に沿った道を延々と歩いて、エリックはようやくウェストン家の表門が見える所までやってきた。
敷地沿いに歩いていた時から感じていたけれど、なんだか慌ただしい、ただならぬ雰囲気が漂っている。
エリックの探偵としての勘が、何かあったと感じ取った。
・・・こういうときは裏口だ。

エリックはさらに生け垣の道をえんえん歩いて、小さな裏門までやってきた。のぞき込むと、キッチンへ続いているらしい裏口のすぐそばだった。
表よりだいぶ控えめな作りの裏口のドアの前で、三人のメイド服の女性がおしゃべりをしていた。幸いというべきか、その中の一人に、エリックは見覚えがあった。
「おばさん!」
エリックが柵ごしに呼ぶと、三人とも振り向いた。(三人とも「おばさん」という年齢のメイドさんだった)
「あらま、エヴァレットさんとこのエリックじゃない!」
「マリーおばさん、ここで働いてたんだ〜。住みこみじゃないメイドさんって珍しいね」
「そうね。でもあたしはメイドっていうより、お料理番のお手伝いなんだよ」
「ふ〜ん」
話しながら、マリーおばさんは裏口の柵を開けてくれた。仲間の二人も、エリックが倫敦でウワサの少年探偵だと知って、もの珍しそうに近づいてきた。

「それにしてもやっぱりあんたはすごいね!さっそく事件をかぎつけてきたってわけなんだろ?」
マリーおばさんが、大げさに両手を広げてそう言った。エリックの耳は、思わずぴくっと動いたが、できるだけ何気ない風をよそおって・・・・
「事件って・・・・、何かあったの?僕はたまたま通りかかっただけなんだけど」
「あらそうかい。そうよね、まだ警察にも探偵協会にも届けてないんだものね」
「ここの家のお嬢様がね!」
おばさんメイドの一人が、たまりかねたように、でも小声で口を挟んだ。
「なんと、誘拐されちまったんだよ!!」
ええっ!?と、エリックは驚いて見せた。これはちょっと予想していた答えだったから。お付きのメイドとの散歩中にわざとはぐれたお嬢様を、家のものがそう思うだろうことは充分想像できる。
「ここだけの話なんだけどね、お嬢様付きのクレアが、散歩から血相変えて戻ってきて、お嬢様がいなくなったって騒いでる矢先に、庭で手紙が見つかったんだ!」
「え?・・・て、手紙!?」
「そうそう。『お宅のお嬢さんは預かった、返して欲しくば・・・』っていう、お約束な文面だったらしいわよ」
「ええええ〜〜っっ!?」

エリックは、今度は本気で驚いた。手紙は本物だ!じゃあセシルは、会場で僕たちとはぐれたあと、悪いやつらにさらわれたってことなんだろうか!?
「お嬢様とクレアが出かけてから1時間くらいして、庭の掃除に出た子が見つけたんだよ」
あれ?
なんか変だ。
「ね、それって何時くらいのこと?」
「ええとね、庭の掃除はたしか11時よ」
・・・・・これって、どういうことだろう?
11時頃セシルは、僕たちと一緒にハイド・パークへの散歩道を歩いていたはずだ。その後会場に着いてからも、しばらくは一緒だった。そんなセシルを、誰が誘拐なんてできるだろう?
「あ、あのさ、ここの家のお嬢さんって何人いるの?」
誘拐されたのはセシルの妹か、お姉さんでは?エリックは思ったのだが、でもその可能性は、マリーおばさんにあっさり否定された。
「イキナリなんだい?ウェストンのお嬢様は、セシル様だけだよ」
「・・・・・・・・・・・・???」
「ちょっとエリック!!あんたが解決してくれるのかい!?」
「おばさんありがと!!僕はちょっと用事で他へ行くから、ちゃんと探偵協会か警察に届けてね!」
かなり混乱しながらも、とりあえずエリックは、アリエスの待つ万博会場へ戻ることにした。

 

 


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やっと事件っぽく、探偵っぽく。メイドさんにときめいた人、ごめん(笑)。
(2002.08.23 ....UP)

 

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