Unison senses in The World 4



久しぶりにログインすると、転送されたのはドゥナ・ロリヤックだった。
「……そうだったっけ……」
高く澄んだ空に幾本もの連凧が揺れ、少し冷たい風が頬を撫でる。
今のカイトにとってはリアルと同じ感触のThe World。
「クビア、どこかな…」
The Worldのどこかにいるのはわかる。なんとなくそう「感じる」のだ。
クビアだったらたぶん、カイトがログインしてきたのを「感じる」のだろう。
合わせ鏡のような「対」の、双子とも言えるPC同士だからこその繋がりだった。
『どこにいる?』
ショートメールを飛ばしてみた。
クビアだったら、カイトがどこにいるかわかって来てくれるはずだ。
ただし───この間のことを怒っていなければの話。

一応あれは合意の上のデータ変換だった。それは大丈夫だと思っている。
だけどその後、カイトは逃げてしまったのだ。
リアルの人間と同じように世界を、カイトを感じることができるようになったクビアから。
あの時カイトが思ったのは、もっとクビアに触れたい、感じて欲しい、人が人とするように、近付いて触れて抱き締めてそして───…。
世界がひっくり返ったような衝撃だった。一気に色んなことがわかってしまって混乱して、怖くなって咄嗟に逃げてしまったのだ。
「コルベニクのドレインハートからだって逃げなかったこの僕が…」
自分にとって誰よりクビアが特別だというのは自覚していたが、まさかそんな風に「好き」になるなんて。
感じるようになったから好きになったのか、好きになったからリアルと同じように感じたいと思ったのか、どちらが先かなんてもうわからない。
ただ、クビアのことが好きだという、それだけ。

ポーン、と軽やかな電子音とともに、ショートメールの着信があった。
『Θ共鳴する 約束の 碧野』
シンプルにエリアワードだけが記されている。
そこにいるよ、ということなのだろうか?
「…来てくれないんだ…」
一抹の不安を抱えながら、カイトはカオスゲートに向き直った。

フィールド転送の光の輪が消えると、そこは思った通り晴れた草原のフィールドだった。
緩やかな丘の稜線が地平線まで続いて見える。
「どこだろう、待ち合わせだったらやっぱダンジョンかな…」
マップを見ると、プチグソを呼ぶまでもない距離…と思ったその時、ポーンと音がしてまたメールが届いた。
「『泉の精霊にごあいさつ』…?」
暗号なのか、それともRPG的「おつかい」なのか。
弱味もあることだし、クビアからの出題だったら行くしかない。
「……やっぱり、怒ってるのかなあ……」
もうプチグソを呼ぶ気にもなれなくて、カイトはフィールドをゆっくりと歩きだした。

サクサクと草を踏む音───自分の足で歩いている。
目を射る眩しい光と風───自分の目で空を見ている。
コントローラーもFMDも持ってなくて、本当にThe Worldにいるんだとオルカに話したら、ゲームの中に入るとかそんなどっかのラノベみたいな話…と最初は笑われた。
元よりリアルのプレイヤーもコントローラーもないクビアには、こんな風に「世界」が見えていたんだろうか。
カイトにとってもここはもう、リアルと変わらないもう一つの世界。
そこに存在するクビアも、ヒトと変わらない。
そこに抱いた恋心も。
リアルとThe Worldを分ける境界はもうどこにもなかった。

とは言え……もしかしたら、もしかすると。万が一にも可能性的に、
「僕の片思い…ってことも、あるかもしれないわけで……」
そんなことを考えながら歩いていると、知らず足取りが重くなる。
モヤモヤと降りかかる不安を振り払うように頭を強く振って、カイトは泉に向かって駆け出していった。





《5へ》 ... (2011/09/05)


 

 

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