Unison senses in The World 1
・カイトとクビア(無印)


最初に求めたのは僕の方だった。

カイトが、話したいことがあるんだ───と真剣な表情で告げてきたのは驚くような話で…でも、考えてみればとても自然な事のように思えた。
少し前からPCボディなのに感覚がある、おまけに端末の前でコントローラーで動かしてるんじゃなくて「ここにいる」んだと言う。
以前にもモルガナに囚われて同じような状態になったPCがいたことを僕は知ってる。ログアウトできなくなってリアルで意識不明になると未帰還者と呼ばれる。でもカイトはそいつみたいにログアウトできないというわけではないらしいから、きっと腕輪の影響なんだろう。
人間の精神をThe Worldに繋ぎ留めることのできるモルガナ、そのしもべ八相をデータドレインした腕輪。モルガナのようにPCと人の心をコントローラーを飛び越えて直接にリンクさせ、「カイト」をここに存在させているということ…?


「…クビア」
カイトは手を伸ばして僕の手を取った。
カイトの右手と僕の左手、手のひらを合わせて指を絡ませる。
「カイトは今、あったかい、とか……触ってる、とか?」
「うん」
カイトの言う人間のリアルの感覚は、AIである僕にはわからない。
…ってことは…たぶんアウラにもモルガナにもわからない。だから、The Worldに取り込まれたPCが痛みや温かさを感じるっていうのは副次的なものなんだろう。
「接触すれば、「触れてる」って感じる、それが人の身体だったら「温かい」って感じる…」

僕だって同じようにカイトに触れているのに。

「…ねえカイト、僕もそれ、欲しい…」
「え?」
「僕も感じたい、カイトと同じように。触れたら温かいって」
僕もカイトに触れたい、感じてみたい。そう思ったら、もう欲しくてたまらなくなった。
あったかい、って言う時のカイトの目がすごく優しいから。
「…そんなこと、できる?」
「できるよ」
見た目はカイトと同型のPCボディ。でも容量や処理能力は桁違いだと自覚している。
「カイトの中に、外部からの情報をリアルと同じ感覚に変換して伝達・認識するプログラムが生まれてるはずだから、それを僕にもインストールしてくれればいいと思うんだ」
「…?…変換…伝達?インストール??」
ごめん僕国語2だし情報処理系もボチボチなんだ…とカイトは申し訳なさそうに首を傾げた。
「簡単だよ。僕に…データドレイン使ってくれればいい」
「えっ……!?」
データドレインの言葉に、カイトは表情を強張らせ、とっさに繋いでいた手を離した。
たぶんカイトにとってそれは、バグモンスターに放つ攻撃手段でしかないから。
「データを改変する力…干渉、伝達、上書き。繋がったならデータを引き出すこともできると思うから」
たぶん、と僕は心の中で付け加える。
「でもデータドレインなんか使って、クビアがどうにかなっちゃったら…!」
「大丈夫だよ。僕だってただのPCじゃないし、同じ力を持ってる。多少どうにかなったって修復は可能なはずだから。ねえ、お願い!」

僕が詰め寄ってせがむと、カイトは目を伏せてふ、と息をついた。
「……わかった…。やってみる」
「うん!!」
わがままを言ってることはわかってるから、ちょっと申し訳ない気持ちになったけど、カイトはいつだって僕の願いを叶えてくれる…
「それじゃ、手を……」
カイトは右手の手袋を外し、素のてのひらを僕に向けた。
僕も左腕のそれを外して左手を合わせる。
…素肌が触れるっていうのは、触覚っていうのは、どんな感じなんだろう?
「いくよ…」
普段は見えない『腕輪』が光を纏い現れる。
合わせたてのひらから、じわりと何かが伝わってくる。
「…っ……」
指が絡み付く。握られる。
「────あ、あぁあ……っ…────!!」
データドレインの波が、僕の身体を突き抜けた。




《2へ》 ... (2011/05/15)


 

--------------------------
AIっ子に五感とかないだろうってぐるぐるした結果こんなものが。思いつくままメモ帳で打ってブログに投下した行き当たりばったりSSのはじまりはじまりー。
ナチュラルにXXXXのEDその後の話で、ナチュラルにクビアたんが復活してたりしますが、まあみんな脳内ではそんなもんですよね。

 

Reset