| 啓世 |
「オーディションでもらった騎士の役と違って今は端役ばっかりだけど、その分色んな役をもらえるのも楽しいな」 近況報告。口の端に笑みを浮かべながらローエルはぽつぽつと劇団でのあれこれを話す。 「通りすがりの町の人、商人、学生、聖職者……色々だ」 いつものプレーンな口調と比べ、少しテンションが上がっているようだった。楽しい、と言うのは本当なのだろう。 「役をもらえればオレは何にでもなれる。騎士にも、王様にも、アイドルのマネージャーにも……盗賊にだってな」 「……!」 盗賊。それは彼の過去の瑕に触れる単語のはずだった。でも今その言葉を口にした本人は微笑っている。かつて見た諦めや自嘲の混じる笑みではなく、穏やかに、現在(いま)を愛おしむように。 「ローエルさん……」 ではこの人は、乗り越えることができたのだ。過去の瑕を消し去ることはできなくても、振り返ってそれをなぞり現在の自分に繰り返し痛みを思い出させる堂々巡りから抜け出すことができたのだろう。 俺の全てを変えた運命のご主人様。 過去も現在もその先も。俺はあなたを見届けたい。 「シェスディ、人生が変わるっていうのは、こういうことを言うんだな」 穏やかに微笑みながら真っ直ぐにこちらを見る眼差しに、ことん、と新しい世界の扉が啓いた。 (了)
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