しあわせのたまご
 

 

 

「アリエスいる〜?」
「おねーちゃーん!!」

倫敦中流の住宅街、アイヴォリー教授のアパートの玄関がばたーん、と開けられた。
「きゃ! な、なによいきなりー!?」
入り口すぐの階段を上ろうとしていたらしいアリエスが、驚いて振り向く。
「どうしたのっ、何か事件でもあったの!?」
「え……? 別に……、ただ一緒に探偵協会でも行こうかなって」
「もうー、だったらちゃんと普通に入ってきなさい! 外にベルがついてるでしょう! それだからアンタいつまでたっても……!」

叱られた。

「それに、今日はダメよ。これからお客さんが来ることになってるの。お父さんのお友達の大学教授と……」
「おねーちゃん、なにこれー?」
いつの間にか相棒のチビが、アリエスの持っていたバスケットの蓋を開けて中をのぞき込んでいた。
「こらー! 勝手に開けない、見ないー! 割れちゃったらどうしてくれるのよう!」
小ぶりのバスケットにいっぱい詰まっていたのは、色とりどりの……タマゴ。
「うわ〜、イースターエッグだね!」
そういえば世間はイースター休暇の真っ最中。教授の家でもホームパーティを開くのだという。
「だからね、今からお父さんのお友達の大学教授のひとたちと、そこの子供がお客さんでうちに来るの。小さい子が多いらしいから、タマゴ探しでもしたら喜んでくれるかなって思ったのよ」

「ふ〜ん。それじゃ、今からそのタマゴ隠すんだね」
「そ。ヒマだったらアンタたちも手伝いなさいよ。なんならウサギの耳でも付けてイースターうさぎになれば、子供たちも喜ぶんじゃないかしらね?」
「う、うさ耳はちょっと……」
「じょーだんよ」
「……………」

イースターエッグを運んでくるという、幸せの使者イースターうさぎ。
「僕、エヴァレット先生の所に来るまで、イースターのこと良く知らなかったんだけど」
「そっか、アンタ裏通りで暮らしてたのよね」
「なんとなくさ、イースターうさぎはイースターエッグから生まれるんだと思ってたんだ」
本を読んだり、色々教わるようになってから、そうじゃないって知ったんだけど、と元ストリートチルドレンの少年探偵はちょっと恥ずかしそうに言った。
「う〜ん、なんか半端な知識が変に混ざってたのね」
「そうかも」

「……タマゴから、生まれることもあるよ………」
「え!? ヴァージル……!」
「ま、またいつの間に………!」
三人の後ろに、ヴァージルが立っていた。気配も足音もない。ドアを開けたのに気付かなかっただけだろうか? 半分あきれる少年とアリエスに構わず、ヴァージルは淡々と話す。
「…この子、イースターうさぎなんだ……」
「え………?」
ヴァージルのマントのフードから、ぴょこ、とうさぎの耳が現れた。
「こんにちは、わたし、シルクっていいます」
柔らかそうな茶色の毛並みのうさぎが控えめに自己紹介をする。
「……タマゴから生まれたうさぎ……イースターうさぎ………」
「ええええ〜!?」
「ほ、ホントに…………??」
ヴァージルと一緒に行動をしていると、精霊が見えても植物が口をきいてもそれは当たり前のことで、あまり驚かなくなってくる。
でも、本当にタマゴから生まれるうさぎがいるなんて……!?

信じられない、と驚く二人に(ちなみに相棒君はイースターもよく知らないようだ)ヴァージルはふと笑う。
「……アリエスのタマゴからも、生まれるかもしれないね……?」
「で、でもこれ、全部ゆでタマゴなんだけど……」
「そっか〜、じゃあ僕、別に間違ってるわけじゃなかったんだね!」
「バカね! 普通は生まれるわけないでしょう!? ヴァージルの知り合いだからに決まってるじゃない」
「……ふふ………」


本当にイースターエッグからうさぎが生まれるのか。
ヴァージルとシルクが少年たちに会いに来たのは何か用事があったから?

……それはまた、いずれ事件簿にて!



《END》 ...2006/10/18

 



倫敦ハロウィン祭りに投稿した…イースター話でした。季節半年もズレてるやん!(笑)
イースターについても中途半端な知識しかなくて、イースターエッグからイースターうさぎが生まれるのが正しいのか間違ってるのかすら未だにわかりません。
こんなところで終わってしまって申し訳ない。 続きの話も一応あったりするんですけど。

 

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