04「一秒前」
 


「もう、……ちょっと……」

「……ああ…、止まりそうで止まらないな……」



「これね、僕の名前の由来なんだよ」

「トンボが……『アキツ』の?」

「そう。ずっと東の方にあるっていう国の、ふるい言葉なんだって。
僕が領主様に拾われたのがちょうど今頃の季節で、屋敷の中庭にいっぱいトンボが飛んでたからだ、って聞いたことがあるんだ」

「単純そうに見えてそんな古語を使うなんて、あの領主にしては気が利いているな?」

「ふふ……まあそう言わないであげてよ。僕けっこう気に入ってるんだから、この名前。
ちょっと興味あったから調べてみたことがあるんだけど、『アキツ』ってトンボのことだけじゃなくて、その東の国そのものを指す意味もあるんだって。
それから、その国の真ん中にある、綺麗な草原の広がる土地の名前も。

……どこまでも広がる秋の草原に、こんなふうにトンボがたくさん、すいすい飛んでるのかな……って想像したら、なかなかいい名前なんじゃないかなって思ったんだけど……
なんて、自画自賛だよねぇ」

「いや、そんなことない……いい名だと思うよ。その、アキツの草原……」
「『秋津野』…って言うらしいよ?」
「いつか、見てみたいな」
「うん」


「…あ!今度こそ …… 止まりそう………」

 

 

 

 

 








《END》 ...2005.10.06

 

 

 


トンボ止まる一秒前。

 

 

 

 

TOPへ戻る