「八月の色の」




「おじいさん、これは何?」
「なんだいセト?…ああ、これは『鉱物標本』と言うんだよ」

おじいさんと暮らしていた天文台の、倉庫の奥で見つけた不思議な箱。
まだ幼かった僕が両腕で抱えるくらいの平べったい木の箱に、色とりどりのきれいな石が
きちんと区切られた仕切りの中に並べられていた。
「…きれい…」
石たちを見詰めながら僕が呟くと、おじいさんは透明なプラスチックの蓋を開けてくれた。
「本当は素手で触るものではないんだが…もう保存しておく必要もないだろうからね」
気に入ったのならセトにあげよう。そう言われて僕はもうすっかり夢中になって、
箱の中から石を摘み出した────。




「ペリドット───だったかな…」
僕は彼の瞳を思い返していた。
青白い月明かりやオレンジ色に揺れる焚火の明りでしか見たことはなかったけれど、
わけもなく偉そうに、不敵に笑うクロウの瞳は、たぶんそんな色だったように思う。
最期の時でさえ、薄暗い蛍光灯の明りでしか見られなかった。
それでも、その身体が力を失って瞼が閉じられるまでずっと僕に笑いかけていたあの瞳を、
できることならちゃんと明るい昼間の太陽の下で見てみたかった。

全部終わったら、天文台へ帰ろう───。
お気に入りの宝物を仕舞っていた僕の机の引き出しにきっとまだ入っているはずの、
鉱物標本から摘み出した石の欠片を取りに帰ろうと思う。

夏の強い日差しを透かしてきらめく木の葉のように明るく輝く緑色。
夏が終わっても変わることのない無邪気な色をしたあの石………

太陽にかざしたら、眩しくて泣いてしまうかもしれない。
それでも、太陽の光で彼の瞳の色を確かめてみたいと思った。

忘れないように。
一番最初のトモダチだと言ってくれた、クロウのこと。






《END》 ... 2012/09/04




 


Wiiのゲーム「FRAGILE フラジール〜さよなら月の廃墟」でしたー。
まだクリア前で、たぶんもうすぐラスダンだと思うんだけどがまんできなかった書いちゃった・・・
始めたの今更だったけど、夏の間にプレイできて幸せです。
私的神ゲー!





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