「僕も飛行機に乗れたら良かったのに」

いつものように他愛なく交わしていた会話の合間に、ふとエマがもらした。
「・・・君でもそう思うことがあるんだ?」
エマは飛行機が苦手なのだ。地に足の着かない感覚に馴染めず、おまけに高所恐怖症の気もあるらしい。

「うん・・・・。君たちがいつも、あんまり楽しそうに飛んでいるから」
「僕とベスビアのこと?ベスビアはどうかわからないけど・・・僕は楽しいよ、確かに」
「羨ましいよ。君とベスビアが飛んでいる間、僕はいつも待っていることしかできない」

ん?と僕は思う。

「エマ・・・・もしかして、妬いてるの?」
イタズラ心を起こして、少しの上目遣いで訊いてみると、エマはとたんに耳まで赤くなる。
「えっ・・・!そそそ、そんなんじゃない・・・・いや・・・ある、のかな・・・?」
僕に訊いてどうするのさ、と思わず笑ってしまった。


エマは正直だ。そして優しい。言葉を紡ぐのがゆっくりなのも、思慮深さからくるもので。
エマは僕が何を話していても丁寧に聞いてくれるし、多少無茶なことにも困り顔をしながら付き合ってくれる。
きっとエマだったら、僕が何をしても許してくれるんだろう。
僕がどんな罪を負っていても、答えを出すのに時間はかかるかもしれないけれどきっと許してくれるんだろうと思う。

・・・・これは甘えで、依存なのだとわかっているけれど。
こんな風に心を預けられる人間を、僕は他に知らない。

そんなかけがえのないともだちが、同じように僕のことを思っていてくれる、これ以上の幸せなんてありえない。

「ねえエマ、」
「な、なんだいカールス」
「エマがいつも地上で待っていてくれるから、僕は飛び立つことができるんだよ」
たぶん今の僕は、とびきりの笑顔なんだろうと思いながら。
「どんなに高く・・・遠くまで行ってもきっと戻ってくるから、エマはここで待っていて」

「カールス・・・・・・   うん、カールスがそう言うなら、僕は待ってるよ」

ちょっと思わせぶりだった僕の言葉に戸惑いながらも、エマはそう言ってくれた。
エマがその言葉の意味を知るのは、もう少し先になるだろう。
でも、僕はそれを大切な約束として、胸にしまい込んだ。





大丈夫、きっと僕は、飛んで行ける。






《END》 ...2006.01.19




 


勢いで書いてしまいました〜。この時、15話「エマへの手紙」まで見たところ
で、途中から見始めたので1〜5話は見ていませんでした。
無事26話で完結したわけですが、当初「ヘルムートさん似!」と軽く一目惚れ
だった(笑)カールスさんの生き様はなんだか凄かったですね〜。
線の細い優等生に見えるのに、意外に情熱的で頑固者で、人造兵のお兄ちゃんで
お父さんで、壮絶な過去持ってたり、地下室で写真切り裂いたりと、見た目より
かなり骨太なお方でした。せめて生きててくれればなあ。





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