「龍の穴」〜壬生くん、初めての旧校舎。




「やぁ、いらしゃい。何か用かい?」
骨董屋の若旦那が出迎えたのは、先頃の拳武館との一件で仲間になった、壬生紅葉だった。生まれて初めて骨董屋というものに足を踏み入れた彼は、物珍しそうに棚を見上げている。
「ここに来れば、いい装備が手に入るって聞いたんだけど。」
「ああ。皆、ここで装備を調えていくからね。何か・・・君の役に立ちそうなものは、あるかい?」
「もう少し、攻撃力が欲しい。それと、行動力が上がるものがあれば。」
壬生の技は素晴らしくキレのあるものばかりだが、確かに総合的には今一つのようであった。この時点で壬生のレベルは45、主力メンバーは皆60前後と、少し開きがあるので、見劣りしてしまうのだ。
「それなら、君におあつらえ向きの品があるよ。だけど・・・」
壬生用の武器を見立てながらちらりと彼の方を見遣った如月の口の端に、微かに笑みが浮かぶ。
「今のレベルだと、君は確実に、龍麻に《龍の穴》送りにされるだろうね。」
「龍の・・・穴?」
何だそれは、と壬生は目で問い返す。どう見ても睨んでいるようにしか見えないが、ポーカーフェイスが似た者同士な如月にはちゃんと通じているようだ。
「《龍の穴》というのはね、真神学園の地下に隠された、対黄龍養成のための修行場さ。この世のものとは思えないような所で、経験値とアイテムを死ぬほど稼がないと戻って来られない。そして、龍麻がまた、その《龍の穴》がお気に入りでねぇ・・・」
くっくっく・・・と喉の奥から笑いを漏らさんばかりの如月の物言いに、壬生はフッと不敵に鼻で笑う。
「望むところだ。」
そうして何事もなかったかのように壬生は骨董屋を後にしたが、ほんの少し、得体の知れない不安を感じてもいた。
「《龍の穴》、か・・・。風水で言う龍穴とかいうものと、何か関係あるんだろうか・・・?」
そんなものが隠されていたとは、さすがは魔人学園おそるべし、と何やら納得してしまう壬生であった。


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「・・・・ってわけでさ、俺たちレベルが足りなかったり、レアなアイテムが欲しかったり、日常生活に飽きちゃったりしたときは、この旧校舎の地下で心ゆくまでバトルを楽しむんだ」
数日後、一緒に修行しないか、と龍麻にに呼び出された壬生は、旧校舎についてそう説明された。
「なるほど・・・それが、《龍の穴》というわけだね」
「あれぇ、何だ、壬生は旧校舎のこと、知ってたんだ?みんな大抵、最初は驚いてくれるのに。(コスモレンジャーや諸羽たちなんて特に。)」
龍麻はさも残念そうに言ったが、壬生だって驚かなかったわけではなく、頭の半分が(やってくれましたね如月さん・・・・)という考えにいってしまっていたのである。当の如月は、この日は呼び出しがかかっていなかった。(実に残念だ)

壬生と同じく少々レベルが低めだった劉、織部姉妹、アラン、マリィ、コスモレンジャー達と連れだって歩きながら、旧校舎に近づくにつれ龍麻の《気》が高まっていくのを壬生は感じ取った。

と、入り口の前で突然龍麻が立ち止まった。
「ふふふ・・・おまえは龍だッ!龍になるのだーーーーーッッ!!今日の目標はレベル65!全員覚悟はできてるかァーーッッ!」
「おうよーー!練馬スピリッツ、全開ーーーーッ!!」
「まあ・・・龍麻様、楽しそうですわね」
「いや〜、やっぱアニキのコレを聞かんと、旧校舎っちゅう気がせぇへんな」

イキナリ繰り広げられる、高校生クイズ(ウルトラクイズでも可)のようなこのノリについていけるのは、コスモレンジャーくらいのものだろう。このとき壬生は、まだ知らなかった。旧校舎の真の怖さは、化物でも無限に続く階層でもなく、ひたすらアイテムと経験値を求める根性と、あと5階・・・あと5階・・・というあきらめの悪さだということを。

その後・・・地下86階くらいで壬生が思わず「も・・・もうイヤだーーッ!地上に・・・お天道様の下に戻りたい〜〜ッ!!」と叫んだことは、メンバーだけの秘密である。






《END》 ...1999.07.18




 


大昔「真神庵」に投稿したもの。




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