幸せな距離【ロディ×ジェーン】
約束の時間の10分前、ジェーンはタウン・ロゼッタの大通りに抜ける路地からひょこりと頭を出し、目の前に立つ人物の様子を伺っていた。 目の前には街灯に寄りかかりきょろきょろと辺りを見回す少年が一人。赤いジャケットに着古されたジーンズ、青い髪と優しげな表情が印象的なその少年は誰かを待っているようだった。しかし、彼を待たせている張本人にはいっこうに出て行く気配はなく、彼女の執事が見たら「嘆かわしい」と呟くに違いないことを止める気配もない。 「だって、ロディが悪いんだから、絶対にそうなんだから!」 どこか後ろめたいと思っているのか、誰に言うわけでもなくジェーンは一人言い訳めいたことを口にする。この町でロディ達と限りなく待ち伏せに近い偶然で再会し、限りなく強引に近い両陣営の合意の上で共に内海に浮かぶ孤島の遺跡、ヴォルカノントラップに挑むという話が決まり、その準備のために一時別行動ということになったのがほんの数時間前。その折に、ジェーンが何気なく口にした一言が今のこの状況をつくるきっかけとなった。 『マクダレン、先に行っててくれる?あたしはちょっとアーム屋に寄っていくから…どうもリロードの調子が悪くて』 『承知致しましたお嬢様、では私は一足先に準備をしております』 『あ、ちょっと待って二人とも』 『ロディ? どうしたの、お姫様とリボンの剣士はもう行っちゃったわよ』 『うん、そうなんだけど…ジェーン、ちょっとアーム見せてくれないか、程度によっては何とかなるかもしれないし』 『何とかって…修理できるの?アームを?』 『そんなに驚かなくても、本当に簡単なものだけだよ…ああ、このくらいだったら大丈夫。ジェーンさえよければ直しておこうか? それとも自分のアームを預けるのは…やっぱり嫌かな』 『べ…別にそんなことないわよ、あんたが直してくれるなら無駄な出費もなくなるしありがたいけど…でも、いいの?』 『かまわないよ、それじゃ…二時間後に大通りの街灯前で待っててくれるかな、それまでに直しておくから』 それから二時間後、自分のアームが世話になった上に待たせたら申し訳ないと少し早めにここに来たジェーンだったが、相手はさらに上手だったようで、彼女が到着した時には既に約束の場所に立っていた。それで折角この自分が待ってあげようという気になっていた彼女はすっかりヘソを曲げてしまい、逆に簡単に出て行ってやるもんかと意地になった。今も建物の壁からこそこそとロディを見るものの、簡単に出て行くつもりはないようだ。 「それにしても…」 こうして遠巻きに見ると、今まで気付かなかったことが見えてくるものだ。彼と話すときはいつも自分が一方的にまくしたて、ロディがそれを困ったような顔をして聞くという図式だから、実はこうしてロディの姿をじっと見るということは今までなかったかもしれない。だから、こうしてロディをじっとみるのは、とても新鮮なことだ。 あのリボンと剣士を比較対象にしてたから気づかなかったけど、意外と背が高いんだ…。 それに口を開けばいっつも甘いことばっかり言ってるし優柔不断だけど、黙っていればちゃんと”男の子”って雰囲気もあるじゃない。 けど、その割りに顔なんかはあたしよりずっと可愛い感じなのがちょっと悔しい。 時計を見たわ…時間気にしてるのかしら…まだまだ!あたしの心づかいを無駄にした罪は重いんだから。 でも、こう見ると。みんなが好きなのも分かるかな…だからライバルが多くて大変…。 「…って何言ってるのよあたしは!」 気づけば大声で叫んでいた。無論、それが3メートルも離れていないロディに聞こえないはずがない。くるりとこちらを向いた少年とばっちり目が合った。しかし、しばしの沈黙の後ジェーンは何事もなかったかのようににっこりと笑った。おまけに、 「ごめんね、ちょっと遅れたわ」 とさらりと言ってのけた。誤魔化しようがないことは分かっていたが、さすがのジェーン・マックスウェルにもここで「ずーっとあんたのことを見てたのよ、文句ある!」と開き直る勇気はなかったのだ。だったら、無理だろうと無駄だろうと有無を言わせず自分がこっそりと彼を見ていた10分間をなかったことにするしかない。 「遅れたっていうか、ずっとそこにいた…」 「うるさいうるさいうるいさーい、レディの言うことは絶対なの!多少のことは笑って受け流すのが紳士の…いいえ男のたしなみってものよ!」 分かった?と腕を組んでぐいっと詰め寄るその姿は、誰が見てもいつものジェーン・マックスウェルだ。しかしそのふくれっ面を間近で見ているロディだけは、頬が微かに赤く染まっていることに気づいている。 「うん、分かった…ちょっと遅かったね、ジェーン」 気づいているから、ロディもジェーンの無茶にいつもの少し困った笑顔で付き合う。何も言わずに、何も聞かずに、いつものようにこのワガママで意地っ張りで、でもとても照れ屋で素直なお嬢様に付き合ってくれる。 「ホント、あんたってどうしようもなくいい奴よね」 ジェーンはそう言って笑った。つられるようにロディも笑った。多分こうして誤魔化してばかりじゃ、いつまでも自分の気持ちなんてなんて認められないだろうし言えないままかもしれないけれど、それでも今はこの距離でいい、このつかずはなれずの微妙な関係はある意味とてもじれったいけれど、でも自分にとってとても幸せな距離だと、ジェーンは優しく笑う少年に思った。
《END》 ... 2005.05.19
|
もんぢゃ様のサイト10万ヒット記念企画に参加して頂戴しました!絵掲に投稿すると それをお題にもんぢゃ様がSSを作ってくださるというステキ企画。 そして私のラクガキにこんなステキなSSが・・・!まさにエビでタイを釣ってしまいました(笑)。 素直じゃないジェーンがもう可愛いんです・・・!!そうそう、ロディ&ジェーンってこんな感じ という理想型ですよvv 恋の三歩くらい手前みたいな。 それにしてもWAを描いたのは数年ぶり、しかもこの組合せは初めてかも(笑)。 ちなみにリメイク版は未プレイなので、たぶんこれは無印の方です。 2005.07.03 ... UP |