異国の香り【エマ/ハキム×ヴィヴィー】

 




意外、と言っては失礼かもしれないが、見かけによらず存外可愛いところもあるものだ。

”お客様にご挨拶”という名目で私の部屋を訪れたジョーンズ家の小さなレディが興味を持ったのは、華美な装飾品でも艶やかな絹の織物でもなく、それらに埋もれるようにひっそりと置かれていた象の形の香炉だった。一体いつ荷に入れただろうか、いやそれ以前にいつ買ったものだろうか、それに関しての記憶は殆どと言っていいほどない。つまりさして大切なものでも、気に入ったものでもなかったのだろう。

「かわいい」

しかし、そのようなものでもこうして誰かの目に留まるというのは悪くない。

「気に入ったか?」

「…あ、いえ、ごめんなさい勝手に触って」

”レディ”としてはしたない行為をしたと思ったのか、小さなレディは顔を赤らめて香炉から手を離した。その様子はウィリアムや他の兄弟達と話す時に見せる勝気な態度とも、使用人達への尊大とも言える態度とも違い、とても大人しく遠慮がち、加えてとても可愛らしいものであったから、私はますますもって驚いた。

「いや、気に入ったのならば遠慮せずに見てくれてかまわない。ただ置いておくよりもこうして誰かに気に留めてもらった方がこれも嬉しいだろう」

「あ、ありがとうございます!」

小さなレディはにっこりと笑ってそう言うと、やはりためらいがちにだが香炉を手に取った。

「これ、ハキムさんが乗ってた…象の置物なんですね」

「半分は正解、だが半分は間違っている。確かに象の形はしているが、置物ではないよ…貸してごらん」

私はやんわりとそう言って彼女から香炉を受け取った。そして部屋の隅にまとめて置いておいたまだ片付けていない荷物の中から必要なものを取り出すと香炉に入れ、火を付ける。細い煙がゆらりゆらりと立ち上りはじめた。

「置物としても使えるが、これはこうやって焚いて香りを楽しむものなのだよ」
どうだい?私が再び彼女の手に煙のゆらめく象を戻すと、小さなレディはわずかに顔をしかめた。

「…何か変な臭い」

「おや、お気に召さなかったか」

「ごめんなさい」

「さっきもそうだが、別にあやまることはない。私の国でよく使われる香りだが、こちらの国ではあまり馴染みがないだろうから」

「…ハキムさんの国の香り?」

「ああ」

「…じゃあ頑張って好きになろうかな」

…。

不覚だ、またしてもこの小さなレディに驚かされるとは。

しかし悪くない。勝気で強気なお嬢様が、こうして屈託のない笑みを見せて可愛いことを言ってくれるのは嬉しいものだ。

「ならばこの香炉は君に差し上げよう」

気づいたら、私はそう言っていた。私はそう言って彼女の髪にぽんと手を置いて微笑んだ

「陽の沈まぬ帝国の小さなレディに外つ国の香りを…受け取ってくれるね」

彼女は何も言わなかった、しかし顔を真っ赤にしてうつむいたまま、小さくこくりと頷いた。その仕草はとても愛らしいもので、それを見て、私はまた柔らかな微笑を浮かべた。

終幕





 

《END》 ... 2005.06.23




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【製作小話】
タイトルの「異国の香り」は沙闇さんのタイトルからそのままいただきました。雰囲気にぴったりだったもので。いつもは勝気なヴィヴィーちゃんの恋する(というか年上のお兄さんに憧れる)女の子な一面が書けたらいいなと思いましてこんな話になりました。  

 

 


上のWAに引き続いて釣り上げた2匹目のタイでございます(笑)。これまた趣味に走った
お題だったのですが、これまたステキなSSを書いていただきました・・・!
うわーやばい!お嬢様可愛すぎます〜〜!あたしがハキムさんだったらそのままインドに
連れ去ります!!(笑) ちょっと気になるお兄さんと、その故郷だという神秘的な国に憧れる
淡い恋(未満)の雰囲気がたまりません〜vv
もんぢゃ様、本当にありがとうございました!

森先生の絵に似せようとははなから思っていなかったので、「エマの」って書かないと
何だかわかんないですね。でもドレスのふわふわ感が上手くいったかな〜なんてな。

2005.07.03 ... UP

 

 

 

 

 

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