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人形のようだ、と思ったが、触れればそれは生身の人の温かさをも備えていた。
胸のあたりに手のひらを当てると、ことんことんと心臓の動きを伝えてくる。
ふ、と吐かれた息が長く伸びた前髪を揺らした。
つくづく厄介なことをしてくれたものだと思う。
カードの精霊としての姿を現すだけならARビジョンで十分だったろうに、何故ここまで人間と同じ身体に具現化してしまったのか。
などと訊いたら父はきっと、「だって、その方が面白いでしょう?」と満面の笑顔で答えるのだろう。以前と比べたら大分マシにはなったものの、まだ奥底に残るらしい紙一重の狂気が時々このような悪ふざけとなって表れるのだ。
カードに描かれたペガサスだけではなく、デュエルをするための人型を元々持っていたのだという。
透けるような白い肌、薄く色付いた金色の長い髪、憂いを帯びた碧色の瞳───その容姿、それから微風がそっと通り抜けるような控え目な立ち居振る舞いも、なにもかもが、
───完ッ全に読まれてやがる……
殊更良くないのが、どこかWの兄を彷彿とさせる静謐。銀の髪と凪いだ湖面のような深い青の瞳が脳裏をよぎる。
───まずい。
そう思った時にはもう手遅れだった。触れている手のひらから伝わる熱が混じり合う。
※何故かWX前提みたいになってしまって(´・ω・`)ここで終了…
2013/08/01
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主と思っているわけではない。「現在の所有者」というだけのこと。
その青年は暇ができると彼を喚び出しては構ってきた。
髪を梳く、服を整える、ひたひたと肌に触れる。
抗う理由もないので黙ってしたいようにさせていた。
普段カードを鮮やかに切る青年の手は、その性格を映して熱い。
そのくせ手つきはひどく繊細で丁寧だった。
ある時、青年は溜息混じりに囁いた。
「綺麗だな…まるで、人形みたいだ」
それでようやく合点がいった。
「ああ…だからあなたは」
耳たぶを摘ままれながら、眼だけで彼の部屋を見渡す。
棚の上、飾り椅子、ガラスケース……部屋のあちこちに配された人形たち。
球体関節人形と呼ばれる彼───あるいは彼女たちのガラスの瞳に二人が映る。
「だからあなたは、私のことを好いてくださるのですね」
2013/07/30
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