Beginners
ドルベ&マッハ
いつもの感じの最終話後の現世二人暮らし

 

 

「主、お願いがあるのですが……」
 学業を終えて帰宅し、マッハの淹れてくれたお茶を飲みながら一息ついていたドルベに、遠慮がちにマッハが切り出してきた。
「何だ?」
「私とデュエルしてください」
「ああ、構わないが……」
 当たり前のようでいてとても意外なお願いだった。そういえばマッハとは一度もデュエルをしたことがなかったのだ。
「君とデュエルするのは初めてだな。ええと……」
 部屋を見回すが、二人で慎ましく暮らしている二間のアパートは狭い。デュエルをするなら外に出た方が良いだろうか。
「あ……いいえ、そんな大げさなものでなくても良いんです。卓上でもできますよね?」
「ああ、君がそれで良いなら」
 お茶を飲んでいたコタツの上を片付けて、向かい合わせに座る。ドルベは学生カバンからデッキケースを取り出したが、マッハのそれは彼のてのひらの上に青い光とともに現れた。
「それが、君のデッキ?」
「そうです」
 このような所作を目の当たりにすると、やはりマッハはカードの精霊なのだと───人の姿をしていても人ではない、自分のように「元人間」だったものとも違うのだと、改めて思わされる。前世のペガサスの白い翼を何故か胸を押さえられるような息苦しさと共に思い出しながら、ドルベはカードを切った。
「「────デュエル!」」

 先攻はドルベで、ドローカードの効果を使った複数召喚からのエクシーズでセイクリッド・オメガを場に出した。
 ドン・サウザンドの呪縛でもあったNo.102は今は手元になく、No.44は自身がそのカードでもあるマッハのデッキに入っている。だが今はナンバーズはナンバーズでしか倒せないルールはオフにしてあるし、セイクリッド・オメガもナンバーズではないとは言え頼れるカードだ。
「カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「では、私のターンです───ドロー」

 世界を、大切なものを守るために、あるいは何かを取り戻すために、時には命を懸けることもあった……だが平和になったハートランドではそんな必要もなく、皆が日常的に娯楽としてデュエルを楽しんでいる。
 そんなデュエルを、愛馬ペガサスと───マッハとすることになるとは。
「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!スカイ・ペガサスをエクシーズ召喚します」
 白い指先がひらめいてマッハのフィールドにモンスターが並び、トラップカードが発動する。そのどれもが、天馬の遺跡で一度だけ見た彼のデュエルに登場したものだった。だが今回はあの時のコンボは発動せず、単純に攻撃力の差でスカイ・ペガサスは破壊されドルベの勝ちになった。
「────ありがとうございました」
 ふう、と息をつきながらマッハは頭を下げた。
「私も楽しかったよ、ありがとう」
 カードを纏めながらドルベが言うと、マッハは碧色の瞳を輝かせた。
「楽しかった……そうですね! 楽しかったです……!」
 頷きながら嬉しそうに繰り返すその様子に、はたと思い当たった。
「……もしかして、デュエルをするのはあれ以来……?」
「ええ。実は初めてデュエルをしたのがあの遺跡で、今のが2回目なんです」
「そうだったのか……」
「今の私はカードですから、本来はデュエリストの手に委ねられるもの……」
 と、纏めたカードの山から一枚を抜いて表に返す。
「主のデッキに入れてください。あなたのデュエルの役に立てるかもしれませんから」
 躊躇いもなくドルベのエクストラデッキの上に乗せた。
────ナンバーズ44 白天馬スカイ・ペガサス……
 機械めいた関節と装甲を持つ天馬が描かれている。ARビジョンで見たのは遺跡のデュエルでの一回きりだったが、雄壮な姿をまた見てみたいと思う。ドルベが自分で召喚してみたい気持ちもあったが、それよりも……
「これは君が持っていた方がいい」
 スカイ・ペガサスをマッハのデッキに戻した。すると途端に悲しそうな顔をするので、違う、必要ないと言っているわけじゃないと慌てて首を振る。
「君がデュエルをする時に必要になるだろう」
「私が……デュエルを?」
「もちろん。まさかこれきりでデュエルをやめるつもりではないだろう?」
「そう、ですね……」
 何故か困惑しているようだった。
「あの……さっきのはただ、一度でも主とデュエルがしてみたかったからで、続けるとかやめるとか、考えたこともありませんでした……」
「そうか……。でも私はまた君とデュエルがしたい。一度きりではもったいないじゃないか」
 遺跡の番人としてではない、初めての『娯楽』のデュエル。世界の命運も自分の命も、何も懸けることはない。
「『楽しかった』なら、またしよう」
「は、はい……!私も、また主とデュエルしたいです…!」
 二人で頷いて笑い合う。
 楽しみなことがこの世界にまた一つ増えた。マッハがそれを知ったこと、ドルベもそれを分かち合えることが何より嬉しかった。

「ところで、君のデッキには他にどんなカードが入っているんだ?」
「どんな、というか……最初に持っていたもので、何も調整していないのですが……」
 纏めたばかりの山を惜しげもなく崩し、マッハは素直にコタツの上にすらりとカードを広げた。
「これは、ううん……」
 なかなか調整し甲斐のあるデッキのようだ。
「……どうですか?」
 カードを広げてうなるドルベを、首を傾げながらマッハが覗き込む。
「悪くないが、調整はした方がいいと思う。後で一緒にカードを買いに行こう」
「カードを……買う……! そ、そうですね……!」
 その発想はなかったとばかりに、マッハは目を丸くして瞬きをする。日常のデュエルも、デッキ調整も、カードを買いに行くことも、何もかもが初めてな様子が微笑ましい。
────私もついこの間まで同じようなものだったからな。
 似たもの主従だな、とナッシュあたりが呆れた声を出しそうだ。ハートランドで人間として暮らし始めたドルベを街のカードショップに連れて行ってくれたのはナッシュとメラグだった。
 あの時の驚きと胸の躍るような楽しさをマッハにも伝えることができるのだ。

「デュエルをするのは楽しい……でも、時々は主のデッキに入れてくださいね?」
「ああ、頼りにしているよ───私のペガサス」


 天馬の翼を、また見ることができる。



(了)

 

 

 

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2015/01/23
わたしデュエカちょこっと触った程度の非ィデュエリストなので用語とか色々間違ってると思いますデュエルムズカシイネー。それにしてもスカイ・ペガサスはどうやったらデュエルで輝けるのか・・・せめて装備効果でもあればなあ・・・。
蛇足ですがオバハンは神代邸に居候してるドン様が持ってるような感じ(てきとう)

 

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