ロストラピス
・ドルベ×マッハ ややR-18

 

 

「───マッハ」
「はい」
 手を伸ばせば引かれるように近付いてくる。手を取り寝台に導いてそのまま情事になだれこんでも抵抗らしい抵抗はない。拒まれるとしたら夕飯の支度がまだだとか、雨が降りそうだから洗濯物を…とか、そんなことくらい。
 今はどうやら手が空いていたらしい。口付けを落とし前髪を撫でると、ふふ、と笑い私の手のひらに頬を預けてきた。

 現世でも変わらず素直で可愛い私のペガサス───再会して当然のように一緒に暮らし始めてから身体を重ねるようになるまで幾らも時間はかからなかった。
 姿かたちは変わっても「ドルベ」と「マッハ」であることは変わらない……。そうは言っても現世で人の姿を取った愛馬のたおやかな姿態はペガサスだった頃を彷彿とさせる美しさで私を魅了した。
 手を伸ばさずにはいられない────。



*************
「ん………っ……」
 主の手がするりと服を解き素肌に触れた。
 鬣を梳き翼を撫でてくれた優しい手に変わりはないが、今は触れる箇所の一つ一つに熱を灯していく。
 前世は青年騎士だった主だが、現世ではまだ少年と呼べる年頃で、あの九十九遊馬とそう変わりない。子供ではないがどこか幼さを残す華奢な手足は私を組み敷く時に一層細く見えて何故か胸を苦しくさせた。
「マッハ……」
 普段は落ち着いた低い声が今は吐息混じりに私の名を呼び、露わになった鎖骨を甘噛みする。
「あ、ぁ……っ…」
 耳に、首筋に、肩に、腕に────情事の折の主の癖なのだ。あちこちにゆるく噛み跡を残していく。痛いと感じる一歩手前の絶妙な力加減で歯を立て、赤く窪んだ歯形を確かめるように舌先でなぞりキスを落とす。繋がっている最中も背後からうなじに、肩に、繋がる熱とは別の刺激を与えてくる。
 まるで噛み癖の悪い猫のようで──── ……
「……痛…ッ……!?」
 不意に二の腕に強い痛みを感じた。
 その辺りを食もうとしている気配はあったが、こんなに強く噛まれたのは初めてで、思わず振りほどこうと身を捩らせたが後ろからしっかり抱え込まれていて動けない。
「あ、あるじ・……っ……」
 味わうように、噛みしめるように、じわじわと食い込んでくる。
「あ、…ぁ……っ…」
「────マッハ……」
 切なげに私の名を呼ぶ大好きな主の声が心地良くて、私は、このまま食べられてしまっても構わない………

────あなたの血と、肉と、命の糧になれるのなら────





 ようやく呼吸が落ち着いて、うっすらと目を開け視線を落とすと、二の腕の真ん中辺りにくっきりと跡が残っていた。いつもの薄い歯型と違い数日は残りそうな主の「食事」の跡。
 申し訳なさそうな主の声が頭上から降ってきた。
「マッハ、済まなかった……痛かっただろう……?」
「いいえ、大丈夫です……」
 肘を付いて半身を起こすと、肩までふわりとシーツが被せられた。
「でも……そうですね……だったら私も一つだけ、付けても良いですか……?」
 主が私に付けてくれたように。
「ああ、構わない。どこにでも────」
 悲壮な表情で唇を引き結んで私を見下ろす主をとても可愛らしいと思ってしまう私はおかしいのだろうか。
 そっと主の右手を取った。手の甲の少し上、少年らしい華奢な手首に口付けを落とす。
「……っ……」
 顔を上げると、白い手首にほんのりと紅く花びらのような跡が残った。
 あまり深く吸えなかったから、すぐに消えてしまうだろう……。それでも、主の心のどこかに残っていてくれれば良いと思う。
「……この、位置……」
 それに気付いたのか、主がぽつりと呟いた。

あなたの血肉になれるものなら、私はあなたの心臓になりたい。
叶わないならせめて永遠に失われたバリアラピス────あなたの第二の心臓の代わりに。





(了)

 

 

 

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2014/09/12
ドルマハのショタおね感を出してみたかった

 

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