ひとりでお帰り
・ED後

 

 

「すっかり暗くなってしまったな……」
 秋の日の夕暮れは早く、図書館を出る頃にはもう夕焼けも消え夜の闇が辺りを包んでいた。今夜は満月だったらしく、藍色の夜空に雲がひとひら、月明かりに白く浮かび上がっている。

 通り過ぎた冷たい風に肩をすくめ視線を落とすと、足元に自分の影が蠢いていた。夕闇の落ちた通りには自分一人だけ……ただこの影だけが自分と一緒に歩いている。
 ……バリアンとしての自分は、この影のようなものだったのではないか?
 英雄として生きた前世、人として再び生を受けた現在……その狭間にうずくまる闇。
「いいや、違う……」
 歪められた歴史だったかもしれない。それでも、守りたいもののために───。
 記憶を取り戻してみれば、前世もバリアンに転生してからも自分の戦う理由は何も変わっていなかったと知れた。
 ヌメロンコードでの書き換えが、過去を消し去るのではなく受け継ぐ改変がなされたからこその現在、バリアンとしての生き方は間違っていなかったと、誇りを持ち続けていられることを嬉しく思う。
 だからこれは負の存在ではない。自分に寄り添う「影」───共に在るべきものなのだ。

 ふと背後の空を振り仰ぐと、昇りかけた満月が道を照らし、また同時に影をも濃くしていた。
 そう……きっといつでもこんな風に、自分と影とを見守ってくれていたのだ。影のように寄り添い分かたれることのない、人間としての自分とバリアンとしての自分を。
 離れていた時も、もしかして振り返ればそこにいたのかもしれない。

「帰ろう……」
 歩く道は一人でも、影が寄り添い、月の光が背中を押してくれる。




 角をいくつか曲がるとやがて自分の住処が見えてくる。小ぢんまりとしたアパートの一部屋を借りて、普通の人間として暮らしているのだ。
 自分の影と足音を連れて鉄の外階段を上り、二階の奥の部屋、明かりの漏れてくるドアを開けた。
「───お帰りなさい!」
 ぱたぱたと、軽やかな足音が玄関へと走り出る。

 太陽かもしれない、月かもしれない。
 私を見守る者……明かりを灯して私を待っていてくれる者がいる。

「ただいま────マッハ」




(了)

 

 

 

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2014/03/28
谷山浩子の「ひとりでお帰り」でした。以前は寂しいけどひとりで帰るマッハさんの歌だと思ってたけど、今聴いたらこうなりました。
ただいマッハ!

 

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