ワンダーランド・シューティングスター
【Epilogue】 そしてワンダーランド


 今日も遊園地は心の浮き立つ非日常のワンダーランド ──── 僕と妹は手を繋いで、いつものように遊園地を楽しんでいた。野外ステージでは、今日はヒーローショーではなく人形劇か何かをやっているようだった。
「お兄ちゃん、見に行こうよ!」
 妹に手を引かれて真ん中あたりの客席に着くと、ステージの上で人形遣いの青年が芝居がかったお辞儀をするところだった。
「─── からくり人形だと思いますか? いいえ違います、彼女たちは生きている ──── ほら!」
 右手に持ったタクトを一振り、優雅なワルツの音楽が流れ出すと、床に転がっていた人形たちが一斉に起き上がって踊り出した。
「わあぁ……! すごい!!」
 不思議の国のアリスの人形と、たくさんの白いウサギの人形がステージいっぱいに飛び跳ねるショーに、妹は喜んで声を上げた。
 こんなにたくさんの人形を一度に操れるなんて……黒いベストに細身のズボン、シルクハットに片眼鏡が印象的なこの人形遣いは、相当な腕前のようだ。
「…………………………………」
 ふとステージの袖に目をやると、見覚えのある白衣と三つ編み。物陰にちらりと桃色のドレスも見える。
 彼女は僕に気付いて、ひらりと手を振ってくれた。
「ああ…………」

 彼女は、取り戻すことができたのだ。


 やがて拍手喝采と共にショーは終わり、人形遣いの青年はステージの袖に退場する。僕は妹の手を引いて、そっとステージの裏を覗いてみた。
「あ、」
 人形を整理している桃色のドレスの少女(?)のエメラルド色の瞳と目が合った。
「姉さま!!」
 その声に、詰まれた木箱の間から白衣の彼女が姿を現した。別れた時と寸分違わない黒いシャツにプリーツスカート、研究者のような白衣。長い金色の三つ編みが揺れる。
 違うのはとても幸せそうな笑顔 ──── 、僕に向けて彼女は笑った。
「また会えたね……! ねえ、これがわたしの本当の弟たち!」
「よかった……! 本当に……そうだ、」
 僕は鞄から、預かっていたものを取り出した。
「これ、返すよ」
 たぶん世界中でたった一人、彼女にしか使いこなすことのできない魔法の望遠鏡。きっとこの先必要になることもあるだろう。彼女はありがとう、と受け取って、手品のように白衣のポケットにしまい込んだ。
「そうだ、あのさ……」
 もう一つ、彼女に渡したいと思っていたものがあったのだ。
「僕の名前、……」
「知ってるよ」
「え? だってまだ教えて ────」
「教えてくれたのは、君が先だったじゃない」
 僕の言葉を遮って彼女は僕を見上げる。──── 深い青色の瞳。
「あ、そうか……あの子も君だったから……」
 そういうこと、と頷きながら彼女は笑う。ちゃんと覚えてるよ ──── と、僕の名を呼んだ。


『アンコール!!』
 客席から声が届く。
『アンコール!!』

「姉貴!!」
 人形遣いの青年が慌しく駆け込んできた。
「あのライオンのやつ、どこだっけ ────!?」
「それなら、ここに」
 風呂敷包みから出てきた子供の大きさほどもあるライオンのぬいぐるみを受け取って青年はステージへ出ようとして────
「なあ、せっかくだからあんたも一緒に出るか!」
「え? 僕?」
「行きましょう! ほら、姉さまも、妹さんも一緒に!」
 僕は人形遣いの青年に、メアリーは桃色のドレスを可愛らしく着こなす下の弟に腕を取られ、一緒くたになってステージに引っ張り出された。
「ありがとーございまーす!! アンコールにお応えしてワンモア!!!」
 人形遣いの再登場に沸いている客席にどう反応していいかわからずにとりあえず手を振って笑う僕の隣で、妹は大はしゃぎで飛び跳ねている。
 人形遣いが指揮を取り、桃色のドレスがライオンと踊る。
 白衣の彼女は客席に向かって手を振り ──── 僕はその人に気付いた。
 彼女と弟たちと同じ金色の髪をした紳士。
 彼もまた、心底幸せそうに笑っていた。


 遊園地 ──── 心浮き立つ非日常のワンダーランド。普通じゃないことがいくらでも起こる。塔のてっぺんで笑う悪魔、紙吹雪となって舞う契約書、過去を失くして彷徨う魔法使い、銀河を背負ったヒーローショー、なにもかもがくるくる回って混ざり合う。
 
 僕とメアリーと魔法使い一家の、夢のようなワンダーランドの話。

 


(了)

 

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2013/10/31
クリス受けならカイクリなので、メアリー兄とブルーベリーさん遊園地でデュエルすればいいんじゃね?と思いついた話。くるりんごさんと谷山浩子と、大元ネタのアークライト一家と天城兄弟いろいろミックスみたいになりました…一応アトラクション全部出せたし自己満足!

 

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