アークライトさんちの44 |
【1】専売特許だって言ったから 「4は俺の専売特許だ!!!」 いけ好かないクラゲ野郎の使ったナンバーズが、よりにもよって『4』だった。 しかも口上が「偉大なる先輩ここに降臨」などとふざけているにも程がある。 カッとなって4という数字がいかにトクベツなのかを力説し、『4』は俺のアイデンティティだとばかりに手持ちのナンバーズ40を召喚し(中略)デュエルに勝利した。 結果、ナンバーズ4は俺の手に渡ったわけだが…… 「クラゲ…か……」 何かの石碑を見詰めてブツブツ言ってる凌牙はとりあえず置いておいて、カードを複雑な思いで眺めていると、ミハエルと遊馬が駆け寄ってきた。 「兄様ー! やりましたね!!」 「かっこよかったぜー、W!!」 誉められれば悪い気はしない。 ハハハ俺様に任せておけば問題ないに決まってるだろうなどと言いながらできるだけさりげなく遊馬にナンバーズを渡そうとしたのだが。 「あ、それWが持っててくれよ! あんたのお陰でシャークも妹も無事だったし、それに『4』好きなんだろ?」 …まあ、あれだけ主張したんだ、やっぱそうなるよな……。 引きつりそうになる笑顔で謝意を表しながらカードを早々に仕舞い込んだ。遊馬の後ろで弟が笑いをこらえている。おいこら、お前がセミのカードうっかり押しつけられたって知ってるんだからな? 「そうだ、4と言えばさ……」 遊馬がケースからカードを一枚抜き出し、差し出してきた。 「ナンバーズ……44?」 「ああ。これも預かっておいてくれないか?ちょっと特別なナンバーズなんだけど」 「そんなものを、どうして俺に……?」 「4好きだって言うから! なんとなく!!」 ドン☆と遊馬の背後に効果音と、最近イタリア地方で人気らしいデュエルヒーローの「いいノリだぜー!!」とかいう決めゼリフが聞こえた気がした。 「なんとなくって、お前なあ……」 呆れながらも受け取ったカードを検分する。 ───ナンバーズ44 白天馬スカイ・ペガサス…… その名の通り、躍動する天馬が描かれている。インパクトはそれほどでもないがデザインは悪くない。効果は後で検証することにしよう。 「わかった。大事に預からせてもらう」 とりあえずナンバーズ4と40の後ろに、44のカードを挿し込んだ。 *************** 「───ところでトーマス。面白いものを持っているね?」 家族揃って過ごすアフタヌーンティーも佳境の頃、急にトロン──まだ昔のように『父さん』と呼ぶには抵抗があった──が俺に話題を振ってきた。兄弟の目が俺に集まる。 「え?面白い……? なんだ??」 急に振られたせいで心当たりもなく戸惑っていると、ミハエルが首を傾げながら瞬きをした。 「トーマス兄様、もしかして、この前遊馬から預かったカードじゃないですか? あの……ナンバーズの」 「あー、あれか!」 急いでケースからそいつを取り出した。デュエルの後家に戻ってバタバタしていて、ゆっくり検証している暇がなかったのだ。 「それそれ、ちょっと見せてよ」 ナプキンで丁寧に手を拭って手袋を填め直してから、トロンはカードを受け取った。 じっくりと眺めながら、つ…と表面を指でなぞる。何故か自分が見詰められているようで、知らず緊張してしまう。 兄と弟と三人で固唾を飲んで見守っていると、トロンはふふ、と笑った。 「面白いねえ…うん。これは確かに特別なカードだ」 トロンがカードを軽くかざすと、表面に光が浮かび閃光となって拡散した。 「あ……っ!?」 紋章の力を使ったのだ。 「ねえ、出ておいでよ君」 飛び散った光が収束し、人のかたちを成していく。 「うわぁ…!」 ミハエルが驚いて声を上げる。円卓の俺の向かいに座るトロンと、その右隣のミハエルの間にそいつは表れた。 「へえぇ、……なかなか高貴な魂を持っているね。気に入ったよ」 光が消えて姿を現したのは、肩の意匠が印象的な鎧を纏った長身の──男のようだった。ARビジョンではない。ブレスレットの力を使っていない俺たち兄弟にも見えている。 「父様、これは、一体…」 いつも冷静な兄もさすがに驚いているようで声が揺れている。 「この子はナンバーズの精霊だよ。このカードに宿っている、ね」 「もしや、『遺跡のナンバーズ』の…!?」 最近のバリアン研究で少しずつ明らかになってきたことだった。 かつてフェイカーたちと共に突き止めた異世界への扉の鍵となる23の遺跡を調べ直し、そのいくつかに特別なナンバーズが封印されていること、遺跡に伝わる伝説がバリアン七皇と何か関係のあることがわかってきたのだ。研究は主に人間界と異世界の扉を開くことについてだったので、バリアン個人については深く突っ込んではいなかったのだが。 「カードに触れてみてわかったよ。君が『封印のナンバーズ』だってこと、七皇の誰と関係あるのかも。いずれ九十九遊馬と接触して聞き出すことになるかと思ってたけど、手間が省けたね」 上機嫌のトロンに対して、ナンバーズの精霊とやらは無言の無表情だった。 「君の知ってること、話してくれるかなあ?」 「……継承は済んだ。伝承もカードも伝えるべき者に伝えた。余人に話すことは……ない」 「アストラル、それに九十九遊馬……か。まあいいよ、今はね。いずれ協力してもらうことになるかもしれないけれど」 意外にもあっさりと引き下がり、トロンは俺にカードを返した。その手から離れた途端『解放』されたのだろうか、ナンバーズの精霊は光の粒となってカードの中に消えた。 「俺が持ってていいのか?」 「もちろん。九十九遊馬は君に預けたんだからね。…その子も一緒によろしくってことじゃないの」 「えっ? ええー…そう、なのか……?」 ただのカードだと思ったから受け取ったのだ。いやもちろん、ナンバーズと名が付くからにはただのカードではないのだが。精霊なんてものが憑いているなんて…遊馬は当然知っていたのだろう。 ───そんな大事なもん、ノリで預けんなよ…! 今すぐ九十九家に乗り込んで行って突っ返してこようかと思ったが、『44』の数字を見てやっぱり惜しくなる。 トロンに与えられた仮の名前『W』だったが、今はそれなりに愛着がある。復讐の足掛かりとして築いた極東デュエルチャンピオンの地位も『W』のものだ。今は家族でいるときは名前で呼び合うことができるようになったが、対外的には完全に『W』のまま。 本名と共にアイデンティティなのは間違いない。 …ってことはやっぱり、このカードは俺が持っているべきだな! 面倒事を避けるよりも、俺は『4』という数字を選んでしまったのだった。
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