瀬人×乃亜 R18
「やっ……ん、……・っ……」
長い指が執拗に僕の秘所を責め立てる。
「あぁっ…!……んっ…や……ぁあ……」
奥の敏感な箇所を弄られ、同時に前も扱かれてたまらず枕を抱え込んだ。
無理なことはされてない。むしろ正当な手順で丁寧に扱われているはずなのに、その手に何の感情も見出せない……ううん、見出したくないと拒否しているのは僕の方だったのかもしれない。
すっかり慣らされてしまったそこから指が引き抜かれ、代わりに瀬人の自身が宛がわれる。
「………っ……!」
ずぶりと侵入してきたそれは焦らすようにゆっくりと身を進め、さして抵抗もなく僕はその全てを飲み込んだ。
「は、……あぁ……っ…! せ、と……っ……」
「くっ……乃亜……っ……」
最奥まで飲み込んだそれを締め付けると、さすがにたまらなくなったのか声を漏らした。
「ね……は、やく……っ……」
刺激が欲しくて続きを促すと、それに応えて緩やかに動き始めた。
「ん……あ、あ……っ……」
自分のものじゃないみたいな甘い声。身体の奥の異物感と、僕を後ろから抱え込む体温、
拒否したい/融け合う
相反する感覚が僕の思考を奪っていく。
「はぁ、あ……っ……あ、やぁあ……ん……あぁっ……あ…っ……」
僕がこんなになってるのに、瀬人は的確に僕の悦いところに当ててくる。
ずるいよ、僕ばかり、こんなになって、、、
「やあぁ……っ……! っあぁ……は……あ、ああ……っ…」
昇り詰める/思考を失う/意識を失う
──── 実体を持たない僕にとってそれは限りなく消滅に近い ……────
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再起動されて目覚めてみたら、バーチャル空間は僕の知るものより格段に進化していた。
ソリッドビジョンやデュエルリンクスの技術を相互に補いつつ、バーチャル空間においてはリアリティをより追求していたようだった。
僕のアバター自体はそう変わっていない。作成された時点でほぼ完成されていたから。
変わったのはバーチャル空間と、ここに降りてくる者たちのアバターだった。
リアルの知覚とのリンクをどこまで高められるか────僕がかつて彼らをバーチャル空間に招待した時のそれは商用利用にはとてもできない危険なレベルの同調だったけれど、今はそのハードルもクリアしているらしい────
生前は射精どころか性的感覚を知ることもなかった僕だけど、電子生命体になってあらゆる情報を吸収するようになってから、その知識だけは得ていた。
だけどそれはあくまで「知っている」だけのこと。自分がそんな性的快感を覚えるとか、ましてや性交の対象になるなんて思ってもいなかったんだ。
再起動してしばらく経って、瀬人と身体を重ねるようになったのも、僕のボディの知覚が後発の彼らのものと比べてどれ程作り込まれているのかという検証のためと言われ、なし崩しに被検体になったからだった。
これがいわゆる「性行為」だと気付いたのは、コトが済んだ後に自分の知識と照合してからだ。
それ自体は別に構わない。
僕のボディを検証することでよりバーチャル空間における技術が進化して、結果的にKCの為になるのなら。
でも……最近はもう、データを取るっていうのは口実に過ぎないことくらいわかってる。
瀬人がバーチャル空間に降りてきて僕を抱くのに、何の意味があるんだろう────。
**************
「ん………」
ふわりと身体が浮き上がるような心地とともにゆっくりと意識が戻る。
────僕はまだ、消えてない────
自分の身体を抱え込むように丸くなって、僕は眠っていたらしい。
肩までちゃんと毛布が掛けてあるのは、すぐ隣で起き上がって青く光るディスプレイを眺めている瀬人の仕業だ。
起きたのか、とでも言うようにちらりと僕に落とされた視線は、すぐにディスプレイに戻される。
素っ気ない態度。綺麗な指が時折キーボードを滑る。僕との情事は単なるデータ収集のためだとでも言いたげで。
「……せと……」
重い身体で寝返りを打ちながら呟くと、視線はディスプレイに落としたまま、手だけを伸ばして僕の前髪を撫でつけた。
その手がひどく優しいことに気付いてしまったのは、いつだったろうか。
「瀬人は、僕のこと、嫌いなんだよね……?」
「………?」
いきなり何を、とでも言いたげな視線が僕に向けられた。
「瀬人は、僕の父上を憎んでいて……その息子の僕を手籠めにしてこんな身体にしちゃってさ、父上が知ったら発狂モノだよ。父上に対する最大の復讐じゃないのかな」
僕が瀬人に抱かれることも、いつの間にか絆されてしまっていることも。
「僕だって、君たちにひどいことして……」
瀬人とモクバの兄弟を引き離そうとした。あの酷い出来事は紛れもなく僕のしたこと、僕の罪。忘れることなんてできない、忘れてはいけない。
「僕は、どうしてまだ生きているんだろう……。あの時、一度消えたはずだったのに。父上と一緒に逝くことができなかった……君の復讐なんだよね……僕と、父上に対する……」
────それでも、こうして再起動されてしまったのなら────
「そうだ……と言ったら?」
問いに問いで返すのはずるい。
「……復讐したいならいくらでもすればいいよ。僕にはもう失くすものは何もない……僕がいらなくなったら消せばいい。僕は全てを────君の全てを、受け容れる」
僕の方から望むことなんて何もない。望む資格すらない。ただ、瀬人の手が優しいことだけが嬉しくて……心が苦しい。
「消したりはしない……今のお前はKCにとって必要な人材だからな。KCが買収でもされない限り、お前はこのサーバーとバーチャル空間で永遠にでも存在できる」
「もう……。僕の言ってるのはそういうことじゃないんだけど?」
あくまでビジネスっていう態度を崩さないつもりらしい。
僕は重たい身体を持ち上げて起き上がり、瀬人の首にするりと腕を絡めた。こっちを見てよ。
「だったら僕が退職届を出したら消してくれるの? 僕が本当は、どうしたいのか……」
「…………………」
視界の端で青く光るディスプレイが消されるのが見えた。
横からぶら下がっていた僕を引き寄せて、膝の上に乗せてくれた。
「乃亜」
深い青色の目が真っ直ぐに僕を見る。その視線は小揺るぎもしない。
「消えるな。お前はここに……俺の元にいろ」
「……っ…………」
──── この魂が願うなら、それは永遠に叶えられる……そう思わせる強い瞳。
「せと…………」
引き寄せられるままに、瀬人の首筋に顔を埋める。少し硬めの後ろ髪が鼻をくすぐり、立ちのぼる瀬人の匂いが僕を包み込む。
いつ消えたって、消されたって構わない──── ………
好きとか嫌いとか、どうでもいいんだ。
ただこの世界に存在する理由が欲しいだけ。
僕がこのタマシイを賭けて願うのは、ただひとつ。
(了)
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2016/10/23
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