「代償」
「ところで普賢・・・ちょっと、頼みがあるのだが・・・」
「え〜っ、またなの〜?」
何気ない風を装って普賢の洞府を訪れた太公望が、何気ない風を装って言いかけた言葉は、全てを口にしないうちに、普賢に真意を見抜かれてしまった。
「そう言わずに頼む!!おぬしの睡眠薬を少しだけ分けてくれ・・・・!!」
「睡眠薬だったら、雲中子に頼んだっていいじゃない」
「雲中子は代償に人体実験のモルモットになれと言うのだ!お、おぬしならそんな、人の道に外れたことは言わぬであろう・・・?」
「むぅ〜〜〜〜」
それは確かに。日頃「無償って素晴らしいと思わない?」などと説いている普賢だからして、代償を求めることなど思いもよらないが、そうやって与えたものが、些細なことではあるが悪事に使われるのもまた普賢にとっては抵抗があるのだ。
「くす・・・・」
何を思いついたのか、普賢はふと笑みをもらした。
「ふ、普賢・・・・?」
「それじゃ、こういうのはどう?キス一回につき、睡眠薬一錠、分けてあげるv」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
とんでもないことを言い出すものだ。
「一回で一錠とは、ぼったくるのぅ・・・・」
「いいじゃない、ね?」
屈託無く笑って見上げてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ほんの軽く、触れるだけのキス。
「これで一錠。」
もう一回。
「これで、二錠か・・・・」
「はい、二錠ね。」
薬包紙の上に、ころん、と転がり出る錠剤。
「不満そうだね?一錠でも強力なんだから、これで充分だよ」
「・・・・・・・・・・・・」
不満(?)なのは数ではない。もしかしてこの先ずっと、薬を分けてもらうたびに、この嬉しくも恥ずかしい代償を与えてやらねばならないのだろうか。嫌というわけではもちろんないのだが・・・恥ずかしい。
無邪気な天使のフリをしおって・・・小悪魔め。
だが、こやつが小悪魔というなら、わしは悪の帝王だ。
ニヤリ。
「・・・・望ちゃん?」
「今くらいのキス一回で一錠ということは、これならどうだ・・・?」
ぐいっと普賢の肩を抱き寄せて。
「ぼ、望ちゃ・・・ん・・────────────
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─────────────────────
─────────────────────
─────────────────────・・・・・・・・・・・」
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「じゃ、そういうことで、コレは頂いていくぞ!」
ウキウキと、机の上の薬の小瓶を懐にしまい込む太公望を止めることもできずに普賢は。
────今のキスって、何回分だったんだろ・・・・?
一回二秒くらいで、時間で換算・・・・・・・・・・・・・
それとも、消費カロリーで・・・・・・・・?
などと、ちょっぴり理系なことをぼんやりとした頭で考えてみる。
「まさか今のが一回だなんて、欲張りなことは言ってくれるなよ?わしはそれでも構わんが・・・・・・・身がもたんかも知れぬぞ。もちろんおぬしの、な」
してやったりという感じの、太公望の会心の笑み。
────ホントにもう、望ちゃんてば・・・・・・・・
何か言おうとしても、溜息しか出てこない。
「・・・・・はぁ。」
《END》 ...2001.05.06
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