いくつもの光
そして闇
優しい声
ようやくたどり着いたその扉を開いて、そして────………?
「世界に今日も」
目を開けると、カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいた。
まだ薄暗い部屋の天井に一筋、眩しく輝く太陽からのメッセージ。
────……夢………?
一度眠りから覚醒すると、その記憶はとたんに霧がかかったように遠くなる。精々6時間ほどの眠りだったはずなのに、長い長い、遠い旅をしてきたような感覚だけが残っていた。
『お行きなさい……』
優しい声が告げた。そうして、少し開いた扉から洩れる一筋の光。淡い夢の記憶から引き上げられて、それは天井に映る一筋の朝の光に成り代わっていく。
まだ胸がどきどきするような、それでいて泣きたくなるような。心だけが夢の中に取り残されて狭間を漂っていた。
────夢……思い出せない……
このまま起き出して、カーテンを開けて朝の光をいっぱいに浴びたら完全に忘れてしまうのだろう。 名残惜しい……でももう戻れない。覚醒した意識は再びの眠りを完全に拒否していた。
そっと心臓の辺りに手を当ててみると、どきどきしていたのは気分だけで、鼓動は思っていたより速くなかった。
ほんのりと温かいのは手を当てているからなのか、それとも……
『────行きなさい。わたしの……───……』
あの優しい声、一緒に旅をした誰かと交わした言葉、探し求めたあの子の影………思い出せなくても一切は心の奥底に仕舞ってあるのだ。
そして今、心臓のあるところを温かくしている。
だったらまたいつか、眠りの中で出会えるかもしれない。
「…起きよ……」
ベッドから降りて、カーテンを開けると、朝の光が部屋いっぱいに満ちあふれる。
半覚醒のふわふわした気分は完全に吹き飛んだ────そのはずなのに、この光はあの夢の続き……そんな気がした。
そう、あれは『今』に続いているのだ………。何故ならあれは、
────生まれる前の、夢………?
強くなりなさい、優しくなりなさい。────わたしはあなたを愛しています────……。
そうして望まれて今この世界に在る自分。
「うん、おはよう!」
光に満ちた世界に今日も。
《END》 ... 2015/09/06
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