とうとう来た。あのひとと───“闇”と戦うときが。できることなら、
避けたかった。だけど、運命(
時の流れ、あるいは「物語」)が
それを許さない。・・・たぶん・・・“闇”も。
私が負けることはない。なぜなら、私は真実を知っている。
ことの起こり、女神様の真意、そして“闇”の正体。
激しい攻撃のを受けながら、私も少しづつ“闇”にダメージを与えていく。
一太刀ごとに、祈るような思いで。
私を、許してくれる?
“闇”───男とも、女ともつかない、もはや人間の形を留めていない
その姿は、そのまま“闇”の心の内を表しているのか。敵意、拒絶、
憎しみ、
そして、「何か」への怯え・・・・純粋な闇そのもの、悪となり果てた
“闇”の正体 ───── それは、“私”。私が失くした、“もう一人の私”。
捨てたのではない。失くしてしまっただけ。だけど、失くしたことに
気付いていなかった。だから、祈る。
お願い、私を許して?
予感。 これが最後の祈り───。手応えがあった。“闇”は、崩れる
ように倒れ込んだ。祈りは、伝わっただろうか・・・・。
異形と化した“闇”の身体が、光の粒子となって空気に溶けていく。
次第にまばゆさを増す光の中に、おぼろげな輪郭をとって現れてきたのは
小さな男の子。それが本来の彼の姿だったのだと、私には分かった。
────祈りは、伝わった。誰に祈っていたのか、自分でもよく
◇◇◇◇わからないけど。
彼は、私の“心の闇”。その存在意義は「闇」でしかない。だけどそれは
本当なら、私がしっかりと抱え、制御し、共存するはずだったもの。
やっと今、私は彼を取り戻すことができる───────。
“闇”の身体はすっかり溶けて、少し薄らいだ光の中、男の子は
閉じていた眼をそっと開いた。その眼には、私への憎しみや恐れは
感じられない。
よかった・・・・・。
男の子のまっすぐな視線が私の眼とぶつかり、二人の心があの夢の
中でのように同調した。懐かしさ、安心感、親しみ、そんな温かい
気持ちが、私たちの心に満ちていく。あんまりうれしくて、しあわせで、
笑いがこみあげてきた。二人して、くすくす笑いあう。
そして、おずおずと伸ばした指先、手と手が触れると、、もう私は
たまらなくなって、男の子をぎゅうっと抱きしめた。男の子の小さな
腕が、私に必死でしがみついてくるのがわかる。
愛しくて愛しくて愛しくて・・・・・愛しい。
やっとあなたを抱きしめてあげられた。あの日記を読んだ時から
ずっと、私が願っていたこと。これでいい・・・。これで、元通り。
あなたと一緒で、私は完全な“私”でいられる。もう離さない・・・。
「あっ・・・」男の子の身体がふわりと透明になり、やはり光の粒子となって
空気に溶けていった。私の腕は、宙を抱いていた。