闇夜に灯す




すう………と静かな寝息をたてている。
束の間眠りに落ちていたらしい意識が覚醒すると、隣にアルシュータさんが寄り添って眠っていた。

「アルシュータ、さん………?」
「…………………」
その眠りは深く、ボクが薄い毛布を二人の上に掛け直しても身じろぎ一つなかった。
ふわりと煽った毛布の中から、まだ残っていた先ほどの情事の熱が逃げていく。
そうして残ったのは、心地良い人肌の温もりと夏の花のように清涼な髪の匂い。


────アルシュータさんの、隣……

それは例えば黄昏を過ぎた空の色。地平に残るオレンジ色が消えかかり、紫から濃い藍色に深くなっていく。
星はまだまばらで、ただ地上の忙しなかった一日を包み込んで優しく夜へと導いてくれる────
アルシュータさんの隣は、そんな静かな夕刻の空を思わせる穏やかさが心地良かった。
初めてできた、大切で、大好きな友達────もっと知りたい、もっと近付きたい……
その延長で肌を重ねるに至るまでにいくらもかからなかった。
何もかも初めてすぎて、友達の『好き』とそれ以上の『好き』の区別なんてわからない。
ただこの人だけが唯一の存在だった。

────は、あぁ………っ……セッカ、さん────

甘い声が耳に残る。
触れる箇所から蕩けていく、柔らかな身体。

────……ここ……?
────ん……っ、…やぁ……っん………

いつもクールでどこか控え目で、あまり感情を表に出すことはないけどボクといる時は柔らかく笑ってくれる。
落ち着いた雰囲気を纏っているアルシュータさんが、ボクの手と名前を呼ぶ声で乱れていく────
それは何故か少しの罪悪感と、相反してぞくぞくするような興奮を同時にもたらしてくる。

────『あなたのこと、もっとよく知りたい、ので……』────

そう言ってくれたのはアルシュータさんだったけど、ボクだってもっと知りたい。
好きなこと、嫌いなこと。楽しいこと、触れられたくないこと。
人の感情はプラスだけじゃない。どんなに仲良くなっても知られたくないことが誰にもあるってわかった上で、

────ボクも、アルシュータさんをもっと知りたい────






「ねえ、アルシュータさん………」

すき、と耳元で囁いても、今は寝息の他に返ってくるものはない。
もそもそと寝床で寄り添うと、伝わってくる温もりに誘われてまた眠りに落ちてしまいそうだ。

────今、何か、夢を見てる……? それとも見てない……?

浅い眠りならボクの声が届いてるかもしれない。そうでなければ、一片の夢の欠片もない深い眠りの底にいる………。
それでもボクは君の隣で君の見ている夢を思う。

願わくばボクの夢を見ていて欲しい────。眠りの闇の中に一粒の炎を灯してあげるから。



(了)

 

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2020/7/1

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