アルシュータさんの性別が迷子 1 |
どうも、ボクです。 ……ボク? セッカ・アルベルイン。後衛回復炎属性の23歳。実は、最近悩んでることがあるんだ。 それは……アルシュータさんの性別について。何で今更って? そうだよね、本当に今更なんだけど。学生時代は友達いなさすぎて性別とか認識してる余裕がなかったし、ずっとぼんやりなんとなく同性だと思ってたんだけど、学園祭で再会してからよくわからなくなっちゃった……。 学生時代から同じゼミっていうご縁があって、ろくに返事もできないボクに話しかけてくれてたアルシュータさんに、この前の学園祭でついに「友達になって!!!」って告ったらOKしてもらえたんだ。 やったねボク! 頑張ったねボク! 意外なことにアルシュータさんもあんまり友達がいないタイプで、ボクと友達になりたいって思ってたんだって。コミュニケーション能力はボクなんかよりめちゃくちゃ高いけど? 本当は人見知りで、誰とでも当たり障りなく話せるだけなんだって言ってた。 ……噛まずに普通に人と話ができるだけでもボクはすごいって思うけどな。 そんなわけで「友達」としてお付き合いを始めてみたんだけど、アルシュータさんがボクの本当の性格を知ってくれたみたいに、ボクも今まで知らなかったアルシュータさんを知っていくことになった。 ……その過程で、アルシュータさんの性別がよくわからなくなっちゃったんだ。 友達になれるまではずっと、アルシュータさんの方から話しかけてくれて、でもボクは片言の返事しかできなくて、ボクはいつも俯きがちだった。 でもアルシュータさんは大丈夫、本当のボクを知っても嫌いになったりしない人だから。そう思ってちゃんと顔を上げて向き合ってみたら、アルシュータさんがとっても可愛い顔をしてることに気付いちゃった。 わりと色白で、長い睫毛に透き通ったオリーブ色の瞳。いつも何か物言いたげな唇は綺麗な桜色で──── ………あれ? もしかしてアルシュータさんって実は女の子だったりしない?? 顔可愛いし、一人称「私」だし、こんなボクと友達になってくれるくらい優しいし、顔可愛いし服も可愛いし。メルストにはボイスがないから見た目だけじゃわからないんだよね。 それに、アルシュータさんの趣味、「手芸」と「鼻唄」なんだって。一度だけアルシュータさんの鼻唄を聴いたことがあるんだけど、それがすごく可愛かったんだ。さっきボイスないって言ってたって? 鼻唄聴いたら性別わかるんじゃないかって? その辺はまあ色々と置いておいて、とにかくボイスがないからやっぱり性別はわからなかったよ。そもそもさ、趣味が鼻唄っていう事実が可愛いじゃない。プロフィールには「男性」とか「青年」とか書いてあるけどそんなの本当じゃないかもしれない。 友達になってから、本当の自分の気持ちとか他の誰にも言ったことのないガラス玉集めの趣味のこととか色々話すようになったけど、さすがに性別どっちとは聞きづらい………! そんな感じで混乱しながらもアルシュータさんと友達になれたことは嬉しくて、学園祭で破壊された教授の部屋の片付けに駆り出されたり、カエルに全部飲まれちゃった実験材料(酒)の買い出しに行かされたり、ついでに学園の先生たちの酒飲みサークルに付き合わされたりしながら、アルシュータさんともちょっとずつ仲良くなっていった。 学園の用事をこなしながら一緒にご飯したり、買い出しのついでに雑貨屋さんに寄ってみたり。並んで歩いて、今日あった色々なこととか、教授の酒グセについてあるあるをグチってみたり。何をしていてもアルシュータさんと一緒なら楽しい。 アルシュータさんの性別はよくわからないままで、それでもボクは嬉しくて浮かれていたんだ。 「そうだ、ねえ、アルシュータさん。これ……あげる」 「? 何ですか?」 友達になってから、ずっと気になってることがあった。 学園祭でボクが出した黄色いバラ───ボクとアルシュータさんを繋げてくれた友情の証───あの時のバラは映心薬の効果が切れた時に全部消えてしまった。学園中を埋め尽くしたアルシュータさんへの気持ちも、アルシュータさんがボクに渡してくれたバラも全部。心の中には今も咲いているけど、改めてちゃんと形のある黄色いバラを贈りたいと思っていたんだ。 「これは…ガラス玉………? ……あ!」 ボクのコレクションの中でも逸品の、中に黄色いバラが浮かび上がる細工が施されたガラス玉。これなら消えることも枯れることもない。ボクの、アルシュータさんへの気持ち。 なるべくさりげない感じで渡したそれを、アルシュータさんは驚きながらも受け取ってくれて、しばらく眺めたあと顔を上げて、ふわっと微笑んだ。 「セッカさん、ありがとうございます……大切にしますね……」 いつもキリっとした感じの切れ長の目が和らいで、長い睫毛が瞬いた。 友情はまだまだ発展途上でボク以上にいつもどこか控え目だったアルシュータさんだけど、この時の笑顔は本当に嬉しそうで────とても可愛くて。 「────っ………!?」 不意打ちにどくんと鳴った心臓が痛い。と言っても、苦手な人と話す時みたいな逃げたくなるようなイヤな鼓動じゃない。今ボクの心臓を握っているのはアルシュータさん。痛いくらいの、これは………幸せ? 「セッカさん……? セッカさん??」 息が止まって動けなくなってしまったボクの肩を掴んでアルシュータさんが揺さぶる。人付き合いに慣れてないボクがアルシュータさんに対しても挙動不審になるのはよくあることだったから、ボクを正気に返しながらいつも「大丈夫ですか!?私も大丈夫です(セッカさんのこと嫌いになったりしません)から!!」って言ってくれる。 「あ、アルシュータ、さん………」 「セッカさん、」 心配そうに覗き込む瞳がすぐそばにあった。前髪がさらりと揺れて、清涼な花のような香りが伝わってくる。 ────ああ……なんかもう、性別とかどうでもいい………… 性別はよくわからないけど大好きな友達がひたすら可愛い……。 アルシュータさんの前で三度目の意識不明に陥りながら、思っていたのはただそれだけだった。 (了)
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