TriangleTracers(仮
序・午後の紅茶とパウンドケーキ


春も近い、ある晴れた日。
倫敦の街で売り出し中の少年探偵と少女探偵は、師匠・名探偵エヴァレットの下宿の応接間で、お茶に呼ばれておりました。
「う〜ん、いい香りだね・・・。彼女の腕前はさすがだよ」
先生が、マーガレット女史のメイドさんを誉めました。お茶うけのパウンドケーキも彼女の手作りです。無口で控え目なメイドさんですが、働き者でお料理の腕前は一流でした。

「そういえばアリエス君、風邪はもうすっかり治ったみたいだね」
冬のあいだ倫敦で流行ったやっかいな風邪に、少女探偵アリエスもすっかりやられてしまい、しばらく寝込んでしまっていたのです。
「ええ、もう大丈夫です。だいぶ暖かくなってきましたし。でも、本当に倫敦中がタイヘンでしたね〜」
色んな人が倒れて、街の機能がおかしくなってしまうほどの大流行でした。
少し前に、とある事件で少年たちと知り合いになったヴァージルと名乗る青年も、熱でぐったりしながら少年に頼み事をしてきたのでした。だいぶ人間離れしているけど・・・・ヴァージルもやっぱり、病気には勝てなかったんだなあと、少年は思いました。
「そういえば・・・・先生とヴァージルって、どうやって友達になったんですか?」
エヴァレットは怪人たちと渡り合い、警察からも頼りにされる倫敦屈指の名探偵。かたやヴァージルは、下町のどん底にひっそり暮らしている、人間嫌いの不思議なひと。
どう考えても、二人が知り合うようなきっかけがあったとは思えません。
「とと、友達・・・・?」
エヴァレット先生はちょっと焦りました。
「友達というか、なんというか・・・・。昔、ある事件で知り合いになって、その後たまに協力したりするようなこともあったけど・・・・。友達というより、腐れ縁のような関係だね」
なにしろお互い何もかも違いすぎるからね、とエヴァレット先生は言いました。どうやら友達と言うにはいろいろ複雑な事情があるみたいです。
「ある事件って、なんですか先生?」
アリエスが、優雅にカップを戻しながら聞きました。
ヴァージルと関わるからには、この間の『異国の石像事件』や、『ネコのお祭り』みたいな、普通の人に話したら笑い飛ばされてしまうような不思議な事件だったに違いありません。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
先生は黙ってお茶を一口。どうやらあまり話したくない様子です。
「・・・・・・・・・・・・・・・・先生?」
アリエスが、とっておきの可愛い仕草で首を傾げて見せました。
少年も『事件』が気になるので、じっと先生を見上げました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・聞きたいのかい?」
「もちろん!!」「聞きたいですー!」
少年とアリエスが、身を乗り出しながら元気良く返事をしたので、先生は「仕方ない・・・」と溜息混じりに呟きながら、話し始めました。

「あれは、確か僕が二十歳そこそこの頃、まだ怪人スペクターが現役で、僕と華麗な戦いを繰り広げていた時のことだよ・・・・」




 



ヴァージルさんとエヴァレット先生の捏造出会い編。 (2006/02/14)

 

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