水晶宮のレディ・エルム 2
**************************

「あ、アニキ〜!」
「来た!時間通りだ、ガキとメイドが出てきたぜ!おい、わかってるな。オレが後を付けて行くから、お前は30分くらいしたら、その手紙を投げ込むんだぞ!そのあと、例のトコロで合流だ!」
「じゃ〜アニキ、時計貸してください〜」
「むぅ、しょうがねぇな。今のオレ様の、たったひとつの財産だ。大事にしろよ」
「はい〜。それじゃ、がんばってくださいね〜」 

**************************




「あたしたちを雇う・・・って、あなたが?何か探偵に頼みたいことでもあるの?」

上流階級(たぶん)のお嬢様だけあって、その態度はなかなか堂に入ったものだったが、アリエスも自らレディを自任するだけあって、その迫力に負けてはいない。エリックもすぐさま、探偵モードに切り替える。これくらいの身分のお嬢様が、お供の一人も連れずに出歩くなんて・・・・・考えられる可能性としては・・・・・
「わたし、これから万博へ行こうと思うんだけど、ボディーガードとエスコートをお願いしたいの。わたし一人じゃやっぱり不自然でしょう?でも、オトナの探偵に頼んだって、まともに聞いてくれるわけないだろうし・・・・・」
「万博に・・・行きたいの?」
「はは〜ん、セシルちゃん、さてはあなた、万博に行きたくて家を抜け出してきたのね?」
「う・・・・・」
アリエスの推理は当たっていたようだ。セシルは一瞬いかにも図星という表情を見せたが、すぐに開き直って一気にまくしたてた。

「そ〜よ、わたし、家出してきたの!行きたい所なんて万博だけじゃないわ。パパったらあんまりカホゴなんですもの!お勉強とかおけいこ事とか、言いつけられたことはみんなちゃ〜んとセイセキユウシュウにしてるのに、まだ人前に出るのにふさわしくないとかなんとか言っちゃって、パーティーどころか万博にも連れていってくれないのよ!よーするにわたしのことが心配なんだって事はわかるけど、毎日のお散歩もメイドの監視付きだなんてあんまりじゃない?もうイヤんなっちゃったから、さっきお散歩に出たときにメイドをまいてやったのよ!パパなんてう〜んと心配すればいいんだわ!わたしだって倫敦に住んでるんだから、『ガラスのお城』を見るくらいの権利はあるわよね!」
なんとも分かりやすいお嬢様とお父様なのだった。たぶんどちらもそうとうガンコ者に違いない。

「確かにね〜、あの『水晶宮』は、倫敦っ子なら死ぬ前に一度は見ておかなきゃよねぇ」
アリエスがいかにも事情通のように万博会場の通り名を口にすると、セシルは目を輝かせた。
「『水晶宮』っていうの?『ガラスのお城』よりそっちの方がステキね!」
「そうね、それに、名前に負けないくらいすごい建物なのよ!ハイド・パークにど〜んとねぇ・・・・」
小さな手を握りしめ、身を乗り出してアリエスの話に聞き入るセシルは、もうすっかり万博に行く気のようだ。
「ねえ、ちょっと待ってよ!それじゃ、セシルの依頼を受けるの?これから万博へ行ってみるわけ?」」
エリックが慌ててそれを遮ると、二人して「んん?」と振り返る。なんだかすっかり意気投合したらしい。
「そうね。あたしはいいわよ。家出までして、ってココロイキがいいわよね!あんたももちろんOKでしょ。どのみち今は仕事がないんだし」
「ココロイキ・・・って言ったって、やっぱり家の人、心配してるんじゃないかなぁ〜。警察とかに届けられたりしちゃったらどうするのさ?」
「う・・・そ、そうねぇ・・・・」
「それじゃ、こういうことにしたらどうかしら」
と、二人の探偵のやりとりを見ていたセシルが提案してきた。
「わたしはメイドとはぐれたあと迷子になって、万博会場に紛れ込むの。それをあなたたちが見つけて、家まで送り届けてくれた、と。これならたぶん、あなたたちにも迷惑はかからないと思うんだけど・・・」
「う〜ん・・・・」
エリックは、その筋書きを頭の中でシミュレートしてみる。なんとなく、良さそうな気はする・・・。
「うん、いいんじゃないかしら。幸いここら辺の人、あんまりあたしたちのこと気にしてないみたいだし、もし協会に捜索依頼が来ても事務所は通してないからあたしたちのこともバレないと思うわ」
「やった!それじゃ契約成立ね!ありがとう!!」
セシルは飛び上がって喜んだ。

「あのさ、念のために聞くけど、キミのフルネーム教えてくれる?」
「うん。わたし、セシル・ウェストン。改めてよろしくね!」
ウェストン────そのファミリーネームに、二人は聞き覚えがあった。
「ウェストンさんって確か、高台の住宅地の、おっきいお屋敷じゃなかったかしら?ブレイクさん家の筋向かいの」
「う、うん、そうだけど・・・パパのこと、知ってるの?」
セシルがちょっと警戒するように言った。
「そういうわけじゃないわ。あの辺にはよく行くから、お屋敷の前を通ったことがあるってだけよ」
なぁんだ、とセシルは笑い、三人は連れだって大通りへと路地を抜けていった。

 

 


「3」へ



セシル嬢は8歳くらいなかんじ。(2002.08.23 ....UP)  (2000.12.4...proto type) 

 

 

Reset