Versus!!

・もしもFORCE:ERA
・カイト→そら改名済み




「いやー、ホント助かりました!ありがとうー!!」
ボリュームたっぷりの浅黄色のツインテールがぴょこんと頭を下げる。そらと同じカイト型PCの少女はサクヤと名乗った。
フィールドでモンスターに囲まれて死にそうになっていたPCを通りすがりに助けた、というよくある話。一人でレベル上げに励んでいたそらが「だれか〜!たーすけてー!!」という声に駆け付けると、このエリアでは一番レベルの高い昆虫モンスター5匹にボコボコにされている双剣士がいた。
なんとか戦ってはいるものの、そらの見たところ武器の属性の相性が最悪のようだ。しかも何故か足元にいたヒヨーコのヒナにつまづいて転んだりしている。
「もうダメー!し〜ぬ〜〜〜〜!!」
「…っ…間に合え……!オラバクローム!!!」
咄嗟にアイテムから巻物を選択して使用すると、ギリギリ効果範囲に収まったモンスター5匹全部に爆炎が襲いかかる。輝くエレメンタルヒットの文字と同時に赤のダメージ数字が浮かびあがり、モンスターは全滅した。

「それにしても、同じカイト型のそら君に助けてもらえるなんて、なんか運命的だねえ!」
良かったら、と言われてメンバーアドレスを交換したサクヤはひたすら明るい脳天気キャラだった。レベルはサクヤの方が10ほど高い。さっき大ピンチに陥っていたのは高レベルモンスター5匹という不運のせいだろうと思うことにした。
「サクヤさんは、今日はソロで…?」
「うん。いつも一緒のパーティ組んでる友達がいるんだけど、今日は遅れてくるって言うから一人でレベル上げしようかなーと思ったらこのザマでねえ」
あっはっはー、と反省した様子もなく陽気に笑う。
「そら君は?やっぱたまたまソロ?」
「うん、サクヤさんと同じ、友達待ちだったんだけど、ここくらいのレベルだったら一人でも大丈夫かと思って」
「レベル…いくつ?あ、あはは…そうだね〜。あんまりハリキリすぎてゲームオーバーじゃ意味ないし……そだ、良かったら今日は一緒にレベル上げしない?」
「え?いいの?」
「もちろん、旅は道連れっていうじゃない!よっし、それじゃさっそくパーティーイン!!」
赤い帽子と浅黄色の髪。双子の姉弟のようにも見えるパーティを組んで、二人は草原に駆け出していった。


***********
「ねえねえ、もしかしてさ、そら君って女の子だったりする…?」
何回目かの戦闘の後、SP回復待ちに一息つきながらサクヤが訪ねてきた。ちなみにごく控え目に表現しても、サクヤは戦闘であまり後先考えずに突っ込んでいくタイプのようだった。
「えッ……?あぁ…うん、実は。…わかっちゃった?」
「やっぱそうなんだー。なんとなく思ったんだけど、気に障ったらごめんね」
見透かされたのは少し恥ずかしかったけれど、隠しているわけでもない。
「男PCにしたのはたまたまだったんだけど、ロールは苦手で…なるべく男の子っぽくしようとはしてるんだけど、夢中になるとすぐ忘れちゃって。何があってもロール崩さない人ってすごいよねえ」
「ほんとほんと!あたしの友達もそれ系なんだけど、マジ尊敬するわ〜」
やはりサクヤもプレイヤーの素のままなのだった。



と、草原フィールドのど真ん中でチャット中の二人に、白いマントを翻しながら一人のPCが駆け寄ってきた。
「サクヤー!!」
「あ、いお…じゃなくて、トービアス!!」
「ログインしたら死にそうってメール来てたから心配したぞ……!」
「えへへ、ごめーん。死にそうだったんだけど、こちらのそら君に助けてもらいました!」
す、と伸ばされた手がそらを紹介してくれた。
「あ…は、初めまして!」
「よろしく…トービアスです」
シャラーン、とかいう効果音とキラキラエフェクトが背後に見えるような、完璧爽やかスマイルの美形斬刀士だった。
そらが咄嗟に思ったのは、
────智彦と同じタイプ!だけどなんか全然違う…!
「うちのアホの子が迷惑をかけてしまったみたいで済まないことをしたね。助けてくれてどうもありがとう」
ちょっとぉトービアスー、とジト目で睨むサクヤをスルーして、トービアスがにこやかに話し掛けてきた。
「いいえそんな!僕もいつも友達に助けてもらってばっかりだから、こんなことって初めてで…」
そらも最近はそこそこレベルが上がってきたものの、ちょっと高レベルのエリアでは先を行くクラスメイトたちにサポートしてもらうことが多かったので、誰かの役に立てたことが純粋に嬉しかった。
「うんうん、お互い助け合ってこそのThe Worldだよね〜」
「サクヤは助けられてばっかりだろ…」
「え〜、そんなことないと思うけどなあ?」
完璧なイケメンPCのトービアスと、いわゆるドジっ娘サクヤはいいコンビのようだった。
「あ、もう一人、いつも一緒の友達がいるんだよ。コンビじゃなくてトリオってやつだよ!…そういえばメアリ、今日は来られないってメールきてたんだっけ。なんかゼミのセンセーに頼まれたとかって」
「またか…。あの子も大概断れないからなあ」
──── ……ゼミ?
二人の雑談に混じる、そらにとってはあまり聞き慣れない単語。そこから導き出されるリアルは。
「ゼミ…ってことは、もしかしてサクやさんたち、だ…だいがくせい……?」
「そだよ!私とトービアスと、それから今日は来られないメアリと。同級生なんだ」
「……………………」
サクヤの言動から絶対自分と同年代…中学生だとばかり思っていたとは言わない方が良さそうだ。本当に、ネットって面白い…っていうか油断できない……と思うそらだった。



「ね、トービアスも一緒にレベル上げ行こうよ!そら君もいいよね?」
「あ…うん、いいけど、わた…僕だけレベル低いみたいなんだけど、大丈夫かな?」
サクヤは無邪気に誘ってくるが、仲の良さそうな二人の邪魔にならないかと遠慮がちに訊いたそらに、トービアスが満面の笑みで答えた。
「もちろんさ!パーティは一人でも多い方が楽しいだろう?それに、レベルの高さすなわち強さじゃない。プレイヤースキル、属性のバランス、時にはリアルラックだって必要だ。その証拠に君よりだいぶレベルの高いはずのサクヤだけど、戦闘ではあまり役に立たない…君も一緒に戦ったなら少しわかるだろ?」
「あ、は、はははは…」
「こらー!!人をダシにしていいこと言ったつもりかー!!」
トービアスがからかう。サクヤがツッコむ。持ちネタかと思うような見事な連携だ。
──── 夫婦漫才…ってやつ?
それじゃお願いしますとメンバーアドレスを交換して、トービアスもパーティに入った。
「ダンジョン行ってみる?」
「うーん、どうかなあ…」
「だったら、ここらのアイテム調べるから、ちょっと待ってて」
行き当たりばったりのサクヤと違ってどうやら頭脳派らしいトービアスが立ち止まる。オフライン表示はないが動かなくなったのは、リアルの方で何か調べているのだろう。
その間にそらはサクヤにこっそり、クローズドチャットでメッセージを飛ばしてみた。
(……サクヤさーん、)
(お、ナイショ話?なになに?)
さっきから気になって仕方なかったのだ。どうして気になる、なんて説明できない、女の子の本能のようなもの。
(あのね…トービアスさんて、サクヤさんのカレシだったりするの…?)
(──── ッぶほぁああぁぁぁッ!!!!!)
(さ、サクヤさんー!?)
イヤホンの向こうから盛大に噴き出したような物音と、咳き込む声が聞こえた。
(うぐっ…げっほげほごほ……カレシ…カレ……ッ……)
苦しそうにひとしきりゴホゴホした後、深呼吸しているようだ。
(…カレシじゃない…ってか、ありえないから……!!)
咳をしすぎたのか少し息を切らせながら、ようやく落ち着いたサクヤの答えが返ってきた。
(そう…なんだ)
(─── ははぁ…、そら君、もしかしてトービアスに惚れちゃったりとかぁ?)
(えッ…!?そ、そんなんじゃないです!!違います!!)
(またまたァ、隠さなくたっていいじゃないですか〜。ウフフフフフフ……)
とても楽しそう…というか不気味に笑っている。
(えっと、そのッ!わ、わたしの友達にもトービアスさんと同じタイプのPC使ってるヤツがいて…!見た目は似てるのに全然違うなーとか……)
(…違うけど、ちょっとカッコイイナーとか?)
(う…、まあその…うん……)
咄嗟の嘘もごまかしも全然得意じゃない。自分の知っている同タイプPCのアイツと、キラキラエフェクトのかかって見えるトービアスのギャップに、実はけっこうときめいていたのだった。
(あー…、そうだよねえ…。外見だけはものすごく良さそうに見えるもんねー。こういうのは傷が浅いうちに言っちゃった方がいいと思うからバラすけど、トービアス、リアルは女の子なんだ……)
(え、え…ええ〜〜〜〜〜〜ッ!!?)
(リアルは残念美人、そしてPCはガッカリイケメンというわけですよ…うん)
ショックを受けているそらに、イケメンじゃないってわけじゃなくて正体を知ってガッカリって意味でねーなどとサクヤが畳み掛ける。

「…… ────ん?なんだ、チャット中なの?」
トービアスが「戻って」きたらしい。動きを取り戻して話し掛けてきた。
「あ、おかえり〜。うん、そら君と、カイト型同士のヒミツの話!」
「なんだそれ…」
少し肩を竦めて受け流すその所作は、リアルをバラされてキラキラエフェクトが半減していてもかなり洗練されて見えた。
─── わたし、もしかして、このタイプのPCに弱いのかなあ……。
二度までもこのバルムンク型PCに淡い恋心を抱いて、儚く打ち砕かれたのである。
─── …も、もうだまされない…だまされない…もう……。そうだよわたし田中のことスキなんじゃないか……浮気だなんて浮気だなんて
「…そら君、大丈夫…?なんかごめんね?」
俯いてブツブツ言うそらを、サクヤが心配そうに覗き込んだ。
「いえ…サクヤさんのせいじゃないですから……」
バルドルの時のように勘違いをしたままでいるよりずっと良いに決まっている、と、気を取り直そうとすると。
「あ、メール…ッ…」
ものすごくタイミング良くログインしてきた田中…ゴンドーからだった。
遅れて済まないとか、バルドルも一緒にいるとか書いてある。
─── う、わぁあああ……!!
別に二人に対して何かいけないことをしたわけではないのだが、今すぐに街へ戻って顔を合わせるのは恥ずかしすぎる。
「さっき言ってたそら君の友達?合流するの?」
「やっ、今はダメ…!」
「?」
「あ、えと…せっかくサクヤさんたちとパーティ組んだし、今日は一緒に冒険したいですよ!ねッ!!」
あからさまに言い訳っぽかったが、サクヤとトービアスは頷いてくれた。
「それじゃ行こうか。さっき調べたらここのダンジョン、双剣が手に入りそうだったんだけど───」
トービアスが先頭に立って歩き出す。そらとサクヤも後ろについて歩き出すと、サクヤがこっそりメッセージを飛ばしてきた。
(今のメールの友達って、トービアスと同じタイプPCって子…?)
(あ、メールは違う人だけど、ソイツも一緒にログインしてきたみたい。たぶん今日もパーティ組んでどっか行くんだと思う)
(良かったらさ、あとでついでに紹介してよ。トービアスと並べてみたら面白そう〜!)
(…いいけど…面白い、かなあ?)
そらにとっては残念なイケメンが二人並ぶだけである。

「こーら、また内緒話?仲間はずれだなんて、おにーさんは悲しいぞ」
二人して顔を上げると、少し先でトービアスが立ち止まって腕組みをしていた。
「ごめんごめーん、そういうつもりじゃなくってね。…ってか、誰がおにーさんじゃ!!」
ぱたぱたと駆け寄りながらサクヤがツッコミを入れる。
男だろうと女だろうと、仲良し夫婦漫才を見ているのは愉しいものだ。

─── トービアスさんとバルドル…智彦並べるって、どうなるのか想像つかないけど……

何人並べたってもう二度とバルムンク型PCには惑わされない、わたし田中ヒトスジなんだからー!と心の中で叫ぶそらなのだった。



***********
その後街へ戻ってゴンドーたちと合流し、自己紹介し合ったバルムンク型PCの二人が、「トービアス…って、あの情報屋のトービアス!?」 「クルセイドのバルドルかー!!ってかフィアナ揃ってるじゃないかー!!」とかなんとか叫んだのは、また別の話である。

 






《END》 ... 2012/06/07
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なんか長い割にグダグダなった…
実際のVersusはそらちゃんやサクヤの中の人がいる訳じゃなくて格ゲーのプレアブルキャラっていうだけらしいです。が、そんな情報が出る前にキャラだけ見てそらちゃんとサクヤたんが友達になるんだ!きっとQuantumの3人もFORCE:ERAプレイしてるんだよ!そうだそうに違いない!!って暴走した妄想でしたー。カイト型女子が2人!!同じ時系列だからこんなこともあればいいよねえ。あとそらちゃんはイケメン好きそうですよね!っていう。

 

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