・田中→そら
・映画その後、The Worldサービス再開後
「カイト…そらの奴さー、俺とゴンドー間違えてたんだよ…」
白銀の騎士バルドルは、心底げんなりした様子で溜息をついた。
「…どういうこと?」
相棒の、巨漢の重剣士ゴンドーは思わずロールを忘れ、素の田中のままで訊き返してしまった。
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年末に大規模なシステムトラブルとネットワーククライシスを引き起こし休止していたThe Worldのサービスが再開されてから一週間。ゲームを離れた者も多かったらしいが、田中のクラスメイトと仲間たちは概ね戻って来て以前のように冒険を楽しんでいた。
最初の2、3日こそゲームへの不安やCC社の噂話が飛び交っていたものの、新しいイベントやエリアが公開されると皆それに夢中になっていった。
そんな中、一人だけ様子のおかしいままのカイト=そらが、田中は気になっていた。
リアルでは普段通りなのだ。
戸倉や果歩たちと笑い、時には男子も交えて期末テストに文句を言い、田中と智彦と一緒に下校する。時折ちらりと意味ありげな視線を投げかけてくるのは、未帰還者になっていた自分が気に掛っているからだろうと思っていた。
それなのに、The Worldを再開してみると、以前のような「カイト」ではない。
元々リアルのそらと変わらない、あまりロールをしないカイトだった(それでも「僕」と言ってみたり、男PCっぽい仕草をしようと意識してはいるようだった)が、そんなぎこちないロールとはまた違った不自然さが目に付いた。
皆との待ち合わせ場所に一人で先に来ていたカイトに声をかけると、急に買い物を思い出したと言って走り去ってしまう。
以前はリアルよりずっと気さくな会話をしていたはずなのに、どことなくよそよそしい。
一対一になることを避けられているようで、自分はまた、何か気に障るような事をしてしまったのだろうかと気になって仕方がない。
リアルで話している分にはいつもと変わらない様子なのが余計に不可解だった。
─── いつもの場所で待ってるから……!!
急に不安になる。
オレンジ色の夕陽に包まれた分れ道…あの時、何故彼女が突然怒りだしたのか、今もわからないままだったから。
リアルとネットは同じようで少し違うよね…たしかそんな話をしていた。その中のどの言葉が彼女を怒らせてしまったのだろうか、わからないまま早足で歩き去るそらの背中に何故か必死になって呼びかけたのだ。
せっかくThe Worldを始めたのに。
せっかく友達に、仲間になれたのに。
このままそらが、カイトがThe Worldを去ってしまうような不安にかられて叫んでいた。
このまま縁が切れてしまうのは……嫌われるのはいやだ。
焦り───後悔───不可解。
その心の揺れが何だったのか考える前に田中はウイルスバグに襲われて意識不明に陥り、目覚めた後はいつも通りの日常に流されていってしまった。The Worldのないリアルだけの日常に、あのやりとりの記憶も押し流されていきつつあったのだが。
今またThe Worldでゴンドーに対して不自然な態度を取るカイトにあの時の不安と動揺を思い出してしまい、なるべくさりげなさを装って智彦──バルドルに訪ねてみたのだ。
「カイト……っていうか、有城さん、何かあった───?」
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「つまり、バルドルが僕だと思ってた、ってこと?」
「そうそう!で、俺=ゴンドー。だからだろ、ゴンドーにあんなにぞんざいな口きいてたのは」
「…なるほど……」
「そんで勘違いがわかって気まずくて、ゴンドーに話しかけづらくて…ってとこかな」
中身が幼なじみだと思っていたが故の馴れ馴れしさだったということなのだ。
「やっぱお前も気付いたよな…The World再開してからおかしかったもんな、アイツ」
リアルじゃ普通なのになあ…と、バルドルも田中と同じ疑問を口にする。
さすがにいち早くカイトの不審な態度に気付いた智彦がそらに何かあったのかと尋ね、とんでもない勘違いをずっとしていたことを白状したのだという。
「まあ心当たりっつったら、それしか……まあ、ないけどさ?」
「だったら…良かった」
しかめ面で腕組みをするゴンドーとは対照的に、リアルの田中は僅かに口元を緩め笑みを浮かべていた。
─── 良かった…、嫌われたんじゃなくて。
良かったって何がだよー全然良くねえよーと呆れたように声を上げるバルドルは、ボイスこそ変えているものの素の智彦とそう変わらない。
リアルの智彦を知る人間なら、そうそう間違えたりはしないと思うのだが…。
「お!そら…カイトがログインしてきたみたいだ」
「そうか。なら早速会いに行ってみるか」
「?」
「俺のリアルが本当は誰なのか知ってる…?って訊いてみる」
「おいおい…あんまりイジワルするなよ〜w」
軽口を叩きながら、二人で立ち話をしていた商店街からいつもの待ち合わせ場所の展望台へと向かう。
彼女の反応が楽しみでもあり、心配でもあった。
ゴンドーのロールをしてはいても、それもまた田中自身の一面に違いなかったから。
それをカイト…そらに見て欲しい、ちゃんと田中として認識してもらいたいと思ったのだ。
智彦だと思われていた、以前のような軽い会話はできないかもしれないが、誤解が解けたなら普通に話すことはできるだろう。
今はそれでいい。
──── ……今は………?って?
ふと心に差した不思議に浮き立つような温かい感情は、だがそれを確信する前にバルドルの言葉に遮られた。
「前方にカイト発見!!速やかに捕獲作戦開始するぞー!!」
カイトとバルドルとゴンドーと、そらと智彦と自分と…絡まって縺れた糸を解きほぐしてからまた話してみようと思った。
リアルでもいいし、ここでもいい。
─── いつもの場所で待ってるから。
そう呼びかけた言葉が叶えられると、今は素直に信じることができた。
《END》 ...2012/03/27
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柳川っ子たちに萌えすぎてテンションがおかしい今日この頃です。あの子たちのその後とか格ゲーとか妄想しちゃうよーニヤニヤしちゃうよー。
とりあえず智彦がそらちゃんに告って玉砕したことはまだ秘密・・・らしいです。
あとパンフによるとジョブはゴンドー・バーサーカー、バルドル・パラディンらしいですけどよくわかんないのでテキトーに無印ミックス。
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