「ベェーストーショッピ〜ング♪」

おなじみのBGMを耳の端で聞きながら、そらは軽やかにエレベーターのステップを降りた。
お使いで買い物に来ることはあるが、ゲーム機器売り場に足を踏み入れるのは初めてだ。
「うわぁ…なんだろこれ…」
今日のお目当てのゲームパッドの他にも様々なアイテムが並んでいる。クラスメイトたちの使っているようなゲーム専用端末、それを入れるケース、液晶保護シート、色違いが10色ほどもあるタッチパネル用のペンやゲームキャラをあしらったストラップなどなど。
物珍しさにきょろきょろしながら、そらはとりあえずゲームパッドを見付けて手に取った。
「あるごす…果歩が言ってたの、これかな」
The Worldを始めて一週間、すっかりハマってしまってお試し版から製品版に乗り換えるまでに至ったそらは、そろそろ小さな携帯での操作に不自由するようになってきたのだ。
携帯ゲーム端末があれば言うことはないが、智彦や田中のように教室や外でどっぷりプレイするわけではないので、ゲームパッドがあれば当面は十分なはずだ。
「白いのと、黒いの…しか、ないのか」
ライセンス品は意外と素っ気ない。
そらは白いパッケージを選んでレジに向かおうとした。

「あ……、FMD？」
フロアの一角に広い面積を取って、まるでメガネ売り場のように見えるFMDコーナーが設えてあった。そらは引き寄せられるようにふらりと立ち寄り、すぐ近くにあった一つを手に取った。
今そらが使っているものと同じタイプ、同じ色。
改めて見てみると、明るいミントグリーンのフレームは、田中のものにしては可愛らしいように思えた。
そういえば携帯も青っぽい色だったような気がする…青系が好きなんだろうか。
そらの脳裏に、髪も服もモノクロームなイメージの田中と、銀の髪と銀の鎧を纏ったThe WorldのPCの姿が同時によぎる。
白銀の剣士バルドルのアイスブルーの瞳を思い出したそらの心臓が、おかしなリズムでどきんと鳴った。
「…な、なんなのよ…」
慌ててFMDを棚に戻す。
あの日、別れ際に突然に渡された『余った』FMDのおかげで、そらはThe Worldに飛び込むことができたのだ。田中のくせに・・・と言いながら感謝しているし、いつまでも借り物のFMDのままではいけないと思っている。
だが値札を見ると、今のそらにはちょっと現実的ではない数字が並んでいた。
「……うー…」
マイFMD購入はお年玉まで保留にすることにして、でも買うとしたらどれがいいかな…？とそらはずらりと並んだFMDを覗き込む。田中に借りたのは少し前のタイプらしく、値段はそこそこだったがカラーバリエーションが豊富で可愛い。
「やっぱピンクかオレンジかなー。…あっ、これ智彦のだ！」
見覚えのある黒いフレームのFMDも型落ちらしくお手頃な値段になっている。
「最新型は……これ？」
目立つように一段高い台にディスプレイされているのが、田中と祖父の使っている最新型のようだった。
「最新…って、何が違うのかな？」
そこかしこに踊るアオリ広告を見ても、FMDどころかゲーム初心者のそらには違いが全然わからない。今使っているのが型落ちだとしても、FMDを初めて体験したそらにとっては十二分にハイテクノロジーの結晶だった。
「発売日に買うとか…どんだけハマってるの、って話…」
最新型の値段に多少引きつつも、そらは手を伸ばして黒い細身のフレームのFMDを取り上げた。首を振って軽く髪を振り払い、耳の上につるを差し込む。パッドを鼻の上に収めて、顔を上げて閉じていた目を開いた。
今は何も映っていないディスプレイ越しの風景は、サングラスを掛けたように黒っぽくくすんで見える。目を閉じると、マク・アヌの石畳の街並みと青空がそこに浮かび上がった。

──── どんな風景を見てるのかな、アイツ……
自分よりもっとずっと長いことThe Worldをプレイしている田中は。
あの綺麗なアイスブルーの瞳に…これと同じディスプレイに、何が映っているんだろう。


ふう、と溜息をひとつ吐いて、そらはFMDを外して棚に戻した。
「…いつか、買えるといいな」

好き、なのかもしれない。
そうじゃなくてただThe Worldに導いてくれたことを感謝してる、大事な友達なのかもしれない。
今はよく分からないけど…

同じ風景を見てみたい。
隣を歩いていたい。

カイトとそらと……バルドルと田中と。
ゲームもリアルも、そらにとっては「彼がそこにいる」、…そういうものだった。

「………田中のくせに。」


小さく呟いて、そらは今度こそレジへと向かった。

《END》 ...2012/03/11
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色々調べたら柳川にもベスト電器あったので、そらちゃんが学校帰りにコントローラー買ったのはそこに違いないと勝手に思い込む！思わずお揃いのメガネかけてドキドキしちゃうとか中学生のKOI的なそんなあまずっぺーそんな何か。