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・クビアとカイト(無印)




草原フィールドを、カイトと二人で歩いていた。
エリアワードはよく覚えてない。Λサーバでいつもみたいに適当に選んだワード3つ。レベルはそう高くない、多少の丘と遺跡のある草原、天気は雲ひとつない晴れ。…つまりただの散歩だった。

「……あ」
不意にカイトが立ち止まる。
その視線の先には緩やかな丘と一本の木。そして薄く空間に色が浮かぶように、ぼんやりと半透明の人型…
「見える?」
カイトが息を潜めるように小声で訊いてきた。
「うん、あそこに昴と……司、かな」
時々あるのだ。あちこちのエリアやタウンに、文字通り「幻影」として現れるPCたち。目覚める前のアウラと深く関わった人たちの幻影───機械的に言えばThe Worldのログ、詩的に言えばモルガナの記憶の残滓?同じく腕輪とアウラに関わる僕たちの前に時々姿を見せた。

少し離れているので声は聞こえない。
二人は寄り添って座り、何か話し、やがて昴が司の手を取って自分の胸に導いて───……
「あ……」
「消えちゃったね」
唐突に淡い光の粒と化して幻影は消えた。
二人は何を話していたんだろう。
昴が司の手を取った瞬間から僕は目が離せなくなった。
The Worldに取り込まれて、PCなのに痛みや温かさを感じるようになった司。
彼はあの手を・・・昴の小さな手を「温かい」と感じたんだろうか。

その温もりを僕も知ってる。
カイトが僕に分けてくれたから。

「…行こうか?」
二人が消えるのを黙って見ていたカイトが促すので僕は歩きだした。
「…………」
カイトの少し後ろを、なんとなく声をかけられないまま黙って歩く。

今とても、カイトと手を繋ぎたかった。
司と昴がしていたみたいに、手を取って温もりを感じたかった。
いつも後ろから不意打ちで抱き付いたり、往来でこっちこっち!と腕を取って絡めたりすることもあるのに。
その時僕は何故か「手、繋いでもいい?」の一言が言えなかった。

「……………………」
黙って歩くカイトは、さっきの二人のことを思い返しているんだろうか。
それともアウラのこと考えてる?
それとも、もっと他の僕の知らない誰かのこと?
そうと決まったわけでもないのにじりじりと焦げ付くような思考の奥の不快感・・・誰ともわからない誰かへの嫉妬。
こんな、痛覚じゃない「痛み」もカイトが教えてくれたこと。
「…カ…」
黙っているのがいたたまれなくなって、カイト、と思い切って声を掛けようとした時、急にカイトが立ち止まって振り向いた。
「クビア!」
「な、なに…?」
「…手、繋いでもいい…?」
「へ?」
思わず変な声が出た。
カイトは返事を聞かずに僕の手首を掴んでさっきの丘に引き返していく。
「ちょ、…カイト……!?」
何も言わずにぐいぐい僕の手を引きながら丘を登り切ってふう、と息をついたカイトはやっと手を離してくれた。
「……手?」
「うん、…でもそれより……」
「………!!」
両腕を広げて、カイトが僕に抱き付いてきた。背中に腕が回されて抱き寄せられる。
受け止めた僕もカイトを抱き締める。

……あったかい。
カイトの重さ。
カイトの形。
さらりと頬に触れる髪の感触。
全身でカイトを感じている。

「…ねえカイト、僕も…手を繋ぎたかったんだ…」
「…うん」
「っていうか…もう手じゃないし……」
ふふ、とカイトが耳元で笑った。



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「あの二人を見てたら…なんかね?」
ひとしきり抱き締め合ってようやく離れて、木の根元に並んで座ると、カイトが照れたように笑いながら言った。
「……僕も」
カイトも同じこと考えてたなんて、と思うとおかしくてしょうがない。
僕はカイトのことが好きで、触れてみたいとかもっと色々知りたいと思うけど、カイトも同じくらいに僕のことをそう思ってくれているんだ…

同じ強さで想い合っているなら二人でできる。
触れて、感じて、抱き締めて、それから……。
カイトはリアルの人間で、僕はそうじゃないけど、…カイトとだったら。

「…ねえカイト、…手を……」
「…うん」
お互い手袋を外した素のてのひらが合わせられる。
じわりと伝わる繋いだ手の温もりはカイトにも伝わってる。

僕が今「ここにいる」。
…いつか僕が消えたとしても、この温もりはカイトの記憶とセカイの記憶に。

 






《END》 ...2011/12/04
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クビアたんを抱き締める(カイトさんが)強化月間のつもりだったのに、路チューにキョドる中学生みたいになりました(だいなし)
そしてなんで「消えたら」とか書いたし。やだークビアたん消えるのやだー

 

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