・カイトとクビア(無印)
「AIは…成長する」
「うん」
独り言のように呟いた言葉に返事があった。
「…夢を見る?」
「見るよ」
閉じていた瞼が開かれ、琥珀色の瞳がカイトを見上げる。
「恋をする?」
「する……。してる、でしょ?」
遺跡の壁にもたれて座るカイトの隣で寝ころんでいたクビアは身を起こした。
半分ほどけて羽衣のように纏わりついた長いマフラーが肩を滑り落ちる。
細い身体の線を強調するかのような白さが眩しくてカイトは目を細めた。
実際のところ、カイトにもよくわからないのだった。
ただどこまでもクビアが特別だというだけで。
草原フィールドを吹き抜ける風が心地良い。
草の匂い。日差しの温かさ。The Worldの「リアル」。
いつかは消えてしまうかもしれない。
「The World」に終わりがくるかもしれない。
そうでなくても、自分のPCが消えればクビアも消えてしまうのだ。
「…だけどそんなの、リアルでだってあることだよね…」
リアルの自分だって明日はどうなるかなんてわからない。
例えば自分が死んでしまって、PCボディとクビアだけがこの世界に残されることもあるかもしれない。
何かの弾みでPCが消えてクビアも消えて、自分だけがリアルに残されるかもしれない。
リアルもThe Worldも、別れと出会いの在り様は同じなのだと思える。
カイトにとってはリアルと変わらないこの世界で、もう一つの自身で、クビアと出会った。
『腕輪』と『反存在』という、単なる仕様の上での出会い。
でも、PCボディは対の存在かもしれないけれど、カイトはカイトで、クビアはクビアだ。
「…クビアが「クビア」で良かった……」
「え?……なに…?」
よく聞こえないよ、と身体を寄せてきたクビアを引き寄せて、ぎゅっと抱き締める。
細いけれど温かい身体。ふわふわと頬に当たる柔らかい癖っ毛。
感覚を得たPCボディの全身でクビアを感じる。
「…………」
するりと背に伸ばされたクビアの手が、カイトの服を握り締めた。
…例えばクビアが八相のように、本当にただのNPCということもあったかもしれない。
クビアがAIで、心を持っていて、成長したり夢を見たり、恋をすることのできる存在だったことが、まるで奇跡のようで愛おしかった。
「…恋、なのかどうかわからないけど…」
すき、・・・だいすき、と耳元で囁いた。
《END》 ...2011/08/26
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ブログで途中になってる続き物の後くらいのつもりで。
本当はこの前書いたトラクビよりこっちの方が先に書いてたのですが、何が書きたかったのかイマイチまとまんなかったです……消える云々は余計だったかな…。
書き始めた時は何の意味もなく 事 後 でした(笑)。差分置いとく。
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「AIは…成長する」
「うん」
独り言のように呟いた言葉に返事があった。
「…夢を見る?」
「見るよ」
閉じていた瞼が開かれ、琥珀色の瞳がカイトを見上げる。
「恋をする?」
「する……。してる、でしょ?」
遺跡の壁にもたれて座るカイトの隣で寝ころんでいたクビアは身を起こした。
裸身に羽衣のように纏わりつく長いマフラーが素肌を滑り落ちる。
細い身体の線を強調するかのような白さが眩しくてカイトは目を細めた。
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