・カイトとクビア(Link)
俺の大活躍の末ようやく復活した「黄昏の騎士団」の仲間。
目の前で、そいつの石化が解けていく。
時間を取り戻したPCボディ。
よろしくねオマケとか、今後とも仲良くしてね、とか軽〜く挨拶をして、光の輪に溶けてグランホエールに跳んでいった。
俺も一足遅れてグランホエールに戻る。
「…………」
転送装置の光が消えて、視界が戻った俺の目に飛び込んできたものは……
「………………クビア!?」
「…カイト……!!」
朝焼けのような朱を纏う、俺の憧れの勇者様が、そいつに駆け寄った。
タックルみたいに抱き付いた勢いで、漆黒の闇夜を思わせる「そいつ」と一緒に、メインホールの床に倒れ込んだ。
「…クビア…君が来るって、感じてた…。待ってたよ……」
「カイト…また、会えた……」
「うん……」
転送装置の前、メインホールのど真ん中でもつれ合って抱き合ったまま動かない二人に、俺は言葉をかけることができなかった。感動の再会にジーンとして…とかじゃなく、何が何やらツッコミの言葉すら見つからないという意味で。
「………………!?」
気が付くと、ショップモールの入り口やホールの柱の陰から何やら視線を感じる。
もとよりホールにいてポカーンと成り行きを見ていたらしいアトリやエルクじゃない。
「ヒィッ!?」
R:1の女の子たちだ。
ブラックローズと寺島良子となつめと……ガルデニアはいつもの無表情だけど、とにかく視線が痛い。
シットの炎とかシュラの形相とか、もしかしたら、なにこの展開美味しいんじゃないとか、目で殺すとか、そんな感じの視線だった。
クビア ──── 『反存在』……
「…………ん?」
確か2017年に数見ってやつの反存在として発生したのが、2010年で発見されて……、でもそこではカイト(の腕輪)の反存在って
言われてた。
「????」
結局どっちなのかはよくわからないけど、今ここにいるクビアは、カイトの力と対になる『クビア』であるらしい。
さっき見てきたイベントとは違う別の何かがこの二人にはあるのかも知れない。
このグランホエールに乗り組んでいる黄昏の騎士団の皆には、それぞれに年代碑だけではわからない事情や絆や思いがあるから。
2010年の一連のイベントでも仲間になってからでも、こんなカイトは見たことがなかった。
意味もなくイジワルで、何考えてるのかわからなくて、反存在っていう存在自体がわけのわからないクビアだけど、カイトにとっては誰よりも特別なんだってことが、今この二人を見ていてなんとなくわかった。
「……それはそれとして……」
なんでカイトとあんなにイイ雰囲気で仲良さそうにっていうか抱き締め合っちゃってるのよっ!!?と言いたそうな女の子たちを、この後どうするんだろうか…と、俺は少し遠い目になるのだった。
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「トキオが2020年のマク・アヌに降りた後、急にカイトが何か呟いてメインホールに走ってったんだ」
ノーマルルームで、腕組みをしてソファに沈みながらオルカがしみじみと言った。
「散々勇者様とかカリスマとか言われてるんだから、もう少し落ち着いたって良さそうなものなんだけどな…」
「仕方ないじゃない。『腕輪』が…感じたんだ。呼んだんだ。クビアだって…」
「ま、俺もこいつには世話になったわけなんだが」
「……こいつとか言わないでよ、世話してあげたんだから」
『クビア』は強大な力を得た者の前に様々な姿を取って現れる…らしい。
それは双頭のドラゴンだったり、触手を持った超古代の怪物だったこともある。
俺の知らない「The World」のどこかの物語で、クビアはこの人型を取って現れて、カイトたちと特別な絆を結んだのだと言う。
そこで一度は消えてしまったクビアが、この時をかける船グランホエールでカイトと再会した。
「……だったら、これも仕方ないか……」
4人掛けで余裕があるはずのソファで寄り添って、でも隣同士で顔を合わせるわけでもなく、ただほんの少し肩と肩を触れ合わせて照れたような、満足そうな笑みを浮かべている。
「…なんか、これと似たのをつい最近見たような気がする……」
紅衣の騎士団部屋で、司と昴が見つめ合って意味深な言葉を呟いていた、アレにそこはかとなく似ている気がする。銀漢はもちろん、ミミルもベアもクリムも、誰もそこには入り込めない二人だけの絆。
「…とりあえず、カイト……」
渋〜い声で、オルカが告げる。
「お前、自分が総モテってことを自覚した上で、今後いかにこの2020年でクビアと付き合いつつ女の子たちとも上手くやっていくかをだな……」
うん、俺もそれ言いたかった。
あの女の子たちの形相を目の当たりにしたのは、たぶんあの時カイトと一緒にホールに来てたオルカと、俺だけだから……。
俺の憧れの勇者様にして、The Worldの伝説の.hackers、R:2以降のキャラにもモテモテなカリスマリーダーのカイトは、実に謙虚で、自分がどんな風に女の子に見られてるか
自覚のない(実に羨ましい…を通り越して驚異なレベル)、とんでもない天然さんだったのだ。この前もブラックローズと寺島良子を一緒に冒険に誘って怒
られてた。
「…初めて会った時の、The World初心者なカイトならともかく、さ?」
「そんなところがいいんじゃない♪」
俺の言葉に顔を上げて、これ見よがしにクビアがカイトの腕を取って抱き付いてみせる。
「…………………」
「………………………………」
これは、しばらく放っておいた方が良さそうだ。
そう目で告げるオルカに、俺も微かに頷いた。
クビアvs女の子たちと、それに挟まれてわたわたするカイト…容易に想像できる図式に、できれば巻き込まれたくはない。
「あー…、俺たちこれで退散するから。カイト、お前はクビアをグランホエール案内でもしてやったらいい」
「それじゃあカイト、俺次のイベントこなしてくるから。…そうだオルカ、また三郎からの依頼があるんだけど付き合ってくれないかな!」
「そりゃ丁度いい…俺もどっか行きたい気分だし、ぜひとも付き合わせてもらうぜ!!」
アハハハ…と乾いた笑いを浮かべつつ、俺とオルカはノーマルルームに二人を残して退散した。
管理者たちにはアブないデータ体って言われてたけど、クビアはそんなに悪いヤツじゃない。それはカイトやオルカを見ていればわかる。
「…ねえオルカ、これから色々、あると思うけどさ……」
「ああ。俺も、カイトが好きなようにすればいいと思うし、その権利はあると思ってる。あいつは「The
World」のために頑張ってきたんだし、ちょっとくらいご褒美をもらってもいいと思うんだ」
「ご褒美…なるほどね」
『この「The World」では、すべてのひとが祝福されている…』
このグランホエールに乗り組んでいる皆が、それぞれの物語、仲間との絆と思いを持っている。一度は完結したはずのそれが、これからまた続きの物語を紡いでいけるのなら…
俺はこの2020年の物語を始めて良かったと思うし、皆が幸せになれればいいと思う。
俺の憧れの勇者様・伝説の.hackersのカイトが、これからどんな物語を紡いでいくのか。
「…トキオ……なんていうか、俺はものすごく不安なんだが…」
「それは言わないでよオルカ…。とりあえず、こっそり物陰から見守るくらいのスタンスでいいんじゃないかな…」
『この「The World」では、すべてのひとが祝福されているの…』
ふわふわと揺れる銀の髪、光と西風と紅い花の名を持つ、The
Worldの女神たちが囁いた。
《END》 ...2011/03/19
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