10「愛してる」
真夜中にふと目が覚めた。
隣で寝ている少年が何か言ったような気がしたのだ。
浅い眠りの中それは形のはっきりしないまま夢に現れ、しかし目覚めてみるともう思い出せなかった。
薄闇の中で気配を探るが、少年が起きている様子はない。
・・・寝言だったのだろうか。
眠りが浅かったせいか、一度目覚めてしまうと、眠れそうでいてなかなか眠りに落ちて行けない。隣で小憎らしいほど安らかな寝息をたてている少年の髪に、そっと触れてみた。
育ちの良い猫のようなその柔らかな感触が、ヘルムートは好きだった。
「ん・・・・・」
わずかに少年が身動きし、さらに身体を寄せてきた。安心したように息をついて、そのまままた眠り込む。伝わってくる、子供のように少し高めの体温。・・・・実際、まだ子供といえる年齢なのかも知れないが。
「好きだよ」
と少年に言われ、それを受け入れたのだから、二人は恋人同士ということになるのだろう。
だが・・・
ヘルムートは今まで恋人というものを持ったことはなかったが、一般的に見聞きする「恋人同士」とはどこか違う気がしてならなかった。
例えばこうして、少年はたびたびヘルムートのベッドにもぐり込んでくるのだが、抱き合うわけでもなくただ一緒に眠るだけの夜も少なくなかった。
そんな時にヘルムートが思い出すのは、以前に聞いた少年の生い立ちだった。
まだ物心つかない頃に海で拾われ、孤児として引き取られた領主の屋敷で子息付きの小間使いとして育てられたという。
ラズリルの領主をわずかながら知るヘルムートは、彼の元で少年がどのように扱われたか・・・
想像するだにいたたまれない気持ちになる。
そして、それ故に、自分をこのように求めてくるのかと思う。
少年は自分に恋人としての存在だけでなく、もっと近しい・・・親兄弟のようなものも求めているのではないのだろうかと。
おそらく少年にはそんな意識はないだろう。
ただひたすらに好きだと告げ、ヘルムートの心と身体と、全てを求めてくるだけで。
だが、こうして隣で安らかに眠る少年を感じるたびに、ヘルムートにはそう思えてならないのだった。
そうして、そんなふうに自分を求めてくる少年を、愛おしいと思う・・・・
恋人としてだけではなく、他の何かも求めているなら、その全てを与えてやりたいと思う。
少年は「好きだよ」と言ったけれど、もしも自分が少年に心を告げるとしたら、たぶん、もっと別の言葉・・・
そう、それはきっと
「・・・愛してる・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少年の眠りは深く、ヘルムートのつぶやきは夢の中にも届いていないようだった。
愛してる。 この命尽きても・・・・ずっと。
胸の内でもう一度。
そして少年の寝息に誘われるように、ヘルムートもまた眠りに落ちていった。
《END》 ...2005.08.27
お題01「好きだよ」と対になっています(たぶん)。あとSS「スイートキャンディ」と
「永遠のコイバナ」と微妙にリンクしてたりするかも。
2007/01/30
ずっとひっかかってた最後のフレーズを変えました。
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