「レミファのうた」
「♪ふ〜んふふ〜ん、るる〜〜る〜〜♪」
本拠地1階の施設街を、カイルは上機嫌で歩いていました。
ついさっきまでは、歩きながらも真面目に次の戦いのことなんかを考えていたはずなのですが、連想ゲームのように思考はあちこちに飛んで、国境警備状況から群島諸国へ、そういえばこのあいだ仲間になったネリスさんもすっごい美人さんで嬉しいな〜〜、などと考えているうち、無意識に鼻歌まで歌ってしまっていたのでした。
「♪ふふ〜んふふ〜〜るる〜る〜〜♪」
あんまり上手ではありませんが、どうやらレルカーの子供の遊び歌のようです。鼻歌に合わせて足取りも軽やかに歩いていると。
「♪ふ〜んふふ〜ん、るる〜〜る〜〜♪」『♪るる〜〜る〜〜〜♪』
いつの間にか、カイルの歌に合わせて、誰かが一緒に歌っていました。
「ん?」
歌と足を止めて振り向いてみましたが、誰も見当たりません。
と、突然、足元から声がしました。
『レミファ〜〜♪』
「うわ!!」
カイルは驚いて飛び退きました。
あんまり背が低すぎて、見えなかったのです。
それは、ドレミの精と呼ばれる不思議な生き物(?)でした。
ハウド村で仲間になった音楽家・コルネリオに付き従う「楽団員」です。
『♪ふふ〜んふふ〜〜るる〜る〜〜♪』
ドレミの精は、さっきのカイルの歌を真似て歌います。
どうやら、レルカーの歌が気に入ったみたいです。
「あーびっくりしたー。君・・・コルネリオの所にいなくていいの?」
『レ〜ミファ〜♪♪』
しゃがみ込んで話しかけたカイルに、ドレミの精は不思議な音色で答えました。
音の妖精であるドレミの精は、一人で和音を奏でることができるのです。
5人いればそれは宮廷の音楽隊にも負けない、風変わりだけれど壮大な曲を演奏することができました。
「はは・・・・。なんて言ってるのかわからないけど・・・、一人でもキレイな声してるんだね〜」
『る?るる〜♪』
どうやら誉められたことがわかったらしく、嬉しそうにふわりと一回転してまた歌います。
「でも、どうして付いて来ちゃったのかなー。俺の歌なんて、そんな気に入るようなものじゃないと思うけど・・・」
しゃがみこんだまま、カイルが多少の疑問を頭に浮かべながらも妖精の歌に和まされていると。
「あら、カイル様?」
「あれ〜カイル、何してるのこんな所で?」
「わわ、王子!と、ルセリナちゃん!!」
施設街のど真ん中、あからさまに通行の邪魔になっていたらしいカイルに声を掛けたのは、連れだって歩いてきた通りすがりの王子とルセリナでした。
「まあ、レミファちゃん、こんな所にいらしたんですね」
「あ、な〜んだ。ちっちゃくて見えなかった・・・。カイル一人でこんな所でしゃがんで何してるのかと思っちゃったよ〜」
「そ、それじゃまるで俺、不審者じゃないですか・・・・」
『る♪』
ルセリナが手を差し出すと、ドレミの精は小さな手をちょこんとその手に乗せました。
「レミファちゃん、コルネリオさんが探していましたよ?」
『るる〜?』
「そうか、この子がレミファっていうのか〜」
カイルはなにやら一人で納得したようにうなずいています。
「名前が付いてるのは知ってたんですが、いっぱいいてイマイチ区別がついてなかったんですよー」
『る〜・・・・』
心なしか、レミファの声のトーンがちょっと下がりました。
「あー!がっかりしてるよカイル!!あ〜あ〜、可哀相に〜〜!」
「えええー!」
さりげない王子のイジメに、カイルは焦ります。
「ご、ごめんね〜レミファちゃん。そうだ、これ良かったら、おわびの印に・・・・」
とっさにポケットから取り出したのは、半透明の紙にくるまれたお菓子でした。
「これ、レツオウさんの新作のお菓子で、大人気らしいよ〜」
「ひよこまんじゅうですね!今品薄で、なかなか手に入らないんですよ、それ」
食材の野菜をカゴいっぱいに運ぶシュンミンを手伝ったお礼にもらったのだと、カイルは言いました。
「ふ〜ん、シュンミンをねえ・・・・」
「な、なんですか王子その目は・・・・」
『れ〜れ〜るる〜〜♪』
ドレミの精は、ひよこまんじゅうをしっぽから囓りながら、嬉しそうに歌いました。
妖精なので特に食物を必要とするわけではないのですが、嗜好品として甘いものが大好きで、コルネリオは餌付けとやる気向上のためにいつも砂糖菓子を持ち歩いているのだとルセリナが説明してくれました。
「嬉しい気分の時の歌は、歌う方も聴く方も、なんだか幸せな気持ちになりますよね」
レミファの幸せ気分が伝わってきたのか、ルセリナも嬉しそうに、ひよこまんじゅうを頬張る妖精を見守ります。
「レミファちゃん、気に入ってくれたみたいだね」
「そうですね、機嫌も良くなったみたいで良かった〜。また何か美味しいものが手に入ったらお裾分けしてあげるよ」
『れみふぁ〜〜るる〜〜♪』
カイルの調子のいい言葉に、レミファはまた嬉しそうに歌いました。
さっきより、音色が一段と良くなったように思えます。
「この子といいシュンミンといい・・・・カイルって、ホントに女の子に親切だよねえ・・・・」
唐突に、王子がしみじみと言いました。
「え・・・・・?お、女の子・・・・・!?」
カイルは思いっきり戸惑いました。
「で、でででも妖精ですよ!?性別なんてあるんですかー!?」
「さあ、僕も良くは知らないけど・・・でもカイルが親切にしたくなるってことはさ、女の子だってことなんじゃないの?」
「カイル様なら本能で女の子だと判ってもおかしくないですね・・・」
「ルセリナちゃんまでそんなー!!」
『る〜るるる〜〜れみ〜〜♪』
カイルの困惑を知ってか知らずか、ドレミの精は機嫌良くぴょこぴょこと歌いながら舞っています。
「ピンクの服を着てるってところが、若干女の子っぽくなくもないけど・・・・」
もし、本当に女の子だったら。
「レミファちゃん、カイルのお嫁さんになれるかどうかは、あとは君の努力次第だよ〜!」
『るる〜?』
「王子ーーー!なに恐ろしいこと言ってるんですかっ!!俺はちゃんと人間の大人の女性が・・・・!」
「でもカイル、もし守備範囲外だったとしても、女の子に冷たくなんてできないでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・それはまあ、そうなんですが・・・・」
種族をも越えた、根っからのフェミニストなのでありました。
「もしも!本当に!!女の子だったらの話ですよ〜〜!!!」
《END》 ...2006.07.09
2周目プレイの時、中盤までレミファちゃんがレギュラーで
ずーっと「夢想の陣」でカイルとツートップだったのでこんなことに・・・(笑)。
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