「プリティ・ケーキ・マジック」




ある日王子が学術指南所でレヴィと立ち話をするフリをしてルセリナの後ろ姿を盗み見ていると、彼女のそばの螺旋階段をミアキスが降りてきました。降りてきたミアキスはルセリナに声をかけ、ルセリナは笑顔で何か頷いているようです。

なんだろう・・・・

ルセリナの笑顔と話の内容が気になった王子が思わずじっと見ていると、
「あ!王子ぃ〜!そんなところで何やってるんですかぁ〜?」
ばっちりミアキスと目が合ってしまいました。
まさかルセリナウォッチングをしていたなんて言えません。
「え、ええと・・・レヴィさんとちょっと・・・」
「そだ!良かったら王子も来ませんかぁ?」
「ミアキスさんと、下の食堂にケーキを食べに行くところなんですけど・・・」

時刻はちょうどおやつ時。小腹の空いたミアキスが食堂へ向かう途中でルセリナに声をかけ、ついでに王子も誘ってみたとのこと。グッジョブミアキス!!と心の中で握り拳を固めながら、王子も付いていくことにしました。



ルセリナの前にカラフルなフルーツタルト。特にこれといってケーキが食べたいわけではなかった王子の前には無難な苺ショート。そして、それ以外のテーブルの余白を埋め尽くす、様々な種類のケーキの群は、全部ミアキスのご注文。
「わ〜!美味しそうですねぇ〜vv」
「み、ミアキスさんって、・・・甘いモノお好きなんですね・・・」
「ミアキス・・・相変わらずだね・・・・。そんなに食べたら、ふ・・・・・」
「何か言いましたか〜王子ぃ〜??」
所狭しと並ぶケーキにうっとりしていたミアキスの目が、キラリと光ります。この間、ケーキバイキングを楽しむミアキスとベルナデットに、うっかり「太りますよ?」と声をかけた青年が、何か恐ろしい目に遭ったらしい話を聞いたことがありました。
「ふ、ふ、ふふふふふふふ・・・・・・」
「どうしたんですか殿下?急に笑い出したりして・・・・・?」
「王子ったら、ケーキ食べられるのがそんなに嬉しいんですかぁ〜?あ、それともルセリナちゃんと一緒だから・・・・」
「うわー!うわー!うわー!い、いただきますッ、美味しそうな苺ショートだなあ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それなりに長い付き合いだからこそわかる、ミアキスの密やかなほくそ笑み・・・・。当分彼女のいい慰み物になることを覚悟しながら、王子が苺ショートの三角の端っこにフォークを突き立てた時。

「わわ!ルセリナちゃん、何してるの〜!?」
「え?」
まるでホットケーキにハチミツをかけるかのような自然な仕草で、ルセリナがフルーツタルトに塩を振りかけていました。それもかなりの量です。
「あ・・・・、すみません・・・。誰からもおかしいって言われるんですけど・・・でも、私どうしてもケーキには塩をかけないと物足りなくて・・・・」
「う〜ん、おかしいよ〜〜。どんな味になっちゃうのぉ〜?」
驚きながら興味津々で覗き込むミアキスに、ルセリナはちょっと困ったようにうつむいてしまいました。そんな表情も可愛いのですが、放っておくわけにはいきません。
「別にいいじゃない、ケーキに塩くらい!スイカだって塩かけるし、お汁粉にだって入れるじゃないか。ケーキだって、チーズケーキなんかけっこうしょっぱい・・・」
「そうだな、チーズケーキは確かに甘いだけじゃないぞ!」
「・・・ゲオルグ様いつの間に!!」
四角いテーブルの一つ空いていた席に、最初からそこにいたかのように、ゲオルグが出現していました。その前にはやはりいつの間にか、当然のようにベイクドチーズケーキが置かれています。
「チーズケーキでもなスフレは普通に甘いしレアチーズは甘酸っぱいがチョコやバニラで風味を付けることもあるからむしろ甘い味の方が勝っているだろうやはりチーズケーキといえばベイクドだなチーズのこってり濃厚なやつが俺は一番だと思うぞそういうチーズケーキはむしろしょっぱいんだ俺が以前喰ったアトリエ・ド・フロマージュのブルーチーズを使ったケーキなんてなあれはケーキじゃないチーズそのまんま出してるんじゃないかという微妙な風味の一品だったぞチーズケーキ好きでもあれはちょっとすすめられな」

延々と、チーズケーキの蘊蓄が並べ立てられる中、王子はショートケーキの端っこに、ちょっとだけ塩を振りかけてみたのでした。







その晩。
王子が夕食後のひとときを部屋で過ごしていると、ドアをノックする者がありました。リオンかと思って何気なく開けると・・・・そこに立っていたのはルセリナでした。
「殿下・・・こんな時間にすみません・・・・」
思いがけない訪問者に、喉から飛び出しそうになる心臓を飲み込みながら、王子はなんとか爽やか王子スマイルを浮かべることに成功しました。
「いや、まだ遅くないし大丈夫だよ。どうかしたの?」
「これをお渡ししたくて・・・・・」
言いながらルセリナは、王子に両手のひらに乗るほどの、小さな箱を手渡しました。
「殿下、昼間ケーキに塩をかけていらっしゃったでしょう・・・?」
「あ〜、あれは・・・・ルセリナがやってるのを、試してみたくなって・・・」
「普通の方の味覚では、たぶん・・・・絶対に美味しくないと思うんです・・・。せっかくの苺ショートだったのに申し訳なくて、お口直しに召し上がっていただこうと思って・・・」
「口直しってことは・・・これ、ケーキ?」
王子がそっと箱を開くと、陶器のカップの中で白いガーゼに包まれた、見たこともないお菓子が入っていました。
「フォンテンヌブローっていう、チーズケーキ・・・なんですが」
昼間のゲオルグのチーズケーキ講義を思い出したのか、くすっと笑いながら、ルセリナは言いました。
「私が一番好きなケーキなんです。塩をかけないで食べたこともあるんですけど、それでも美味しかったので、たぶん普通に食べても美味しいものだと思います」
「ありがとう・・・!それじゃ、このまま、何もかけないでいただくことにするよ」
冗談めかして王子が言うと、ルセリナはふわりと笑ってくれました。
「でも・・・昼間の苺ショートも、なかなか美味しかったよ・・・?」



ちょっぴり塩味の苺ショート。
それはそれは微妙な味わいのスイーツでしたが、ルセリナはいつもこんなケーキを食べているんだと思うと、それすら甘く感じられる王子なのでした。






《END》 ...2006.03.15




 


初めての5SSは王ルセでした〜vvv甘甘だ〜〜。
タイトルは「ミルモでポン!」の最初のOPより(笑)。





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