人の眠りには二つの種類がある。
深い深い眠りの「ノンレム睡眠」。
浅い眠りの「レム睡眠」。
一晩のうちに二つの睡眠は交互に繰り返されて・・・・周期の中で二人のレム睡眠が
重なるのは別に不思議なことじゃない。

浅い眠りの中、ヘルムートは夢を見ていて、僕は・・・・・・ 




「その夢にまで」




夢を見ていたのかいなかったのか、ふわふわと浅い眠りを漂う少年の意識を覚醒
させたのは、隣で身を起こしたヘルムートだった。
二人で掛けていた毛布が引かれ、すき間から入り込んだ冷気が夜着を通して肌に触れる。
「んん・・・・ヘルムート・・・?」
ほとんど言葉にならないような呟きを少年が漏らすと、
「あ、すまない・・・起こしてしまったか・・・・?」
なるべく静かに、空気さえ動かさないようにそろりと、ヘルムートは寝台に横になった。
そっと毛布を少年の肩まで掛け直し、音もなく溜息をつく。
「どうか、したの・・・?」
目を閉じたまま、もう一度眠りの中に沈み込もうとしながらも、少年は訊いてみる。
「・・・夢を見た・・・・」
毛布の温かさと、寄り添う少年の体温に眠気を誘われたのだろうか、途切れがちに
ヘルムートは囁いた。
「海軍に、入り立ての頃の・・・・夢・・。トロイ様はまだ英雄ではなくて・・・厳しいけれど
頼れる先輩で、兄のようで・・・・」
思いがけず聞かされたその名に、少年の意識はまた覚醒に近くなる。
重い瞼を起こしてみると、薄闇の中ヘルムートは目を閉じ、眠りに落ちようとしていた。
「・・・信じられない・・・・今、群島にいて・・・・君の恋人になっているなんて・・・・夢、みたいだ・・・・」
それきり、ヘルムートの言葉は途切れた。
「・・・・・・・・・・・・・」

────信じられないよ、僕も・・・・・。

夢みたいだと呟きながら、ヘルムートは最後に微かに笑った。
それは自嘲や諦めではない、穏やかな笑みだったので、ヘルムート自身今のこの状況を
悪くないと思っているのだろう。

・・・それでもなお少年は。



────信じられない。自分が・・・・こんなに欲張りだったなんて・・・・・。

夢の中に、自分の知らないヘルムートがいたのかと思うと、それがどうしようもなくもどかしい。
未だ手の届かない存在である「海神の申し子」・・・・その夢にまで、嫉妬する。

────この船に乗ってくれて、僕の傍にいてくれて、好きだって言ってくれる・・・・それ以上
望むことなんて何もないはずなのに・・・・




「・・・・今度は、僕の夢を見て・・・・・」

切なく囁かれた少年の言葉は、恋人の夢に届いただろうか。

 








《END》 ..2006.04.20




 


うちの二人が一緒に寝てる場合、ただの添い寝の確率が5割です。
4主は思春期なんでまだまだ足りないんですけど、ヘルムートさんはわりと充分幸せらしいです。 

珍しく、思い付いてから数日で書き上がりました。年単位で寝かせるよりいいのかなあ。
完成すればどっちだって満足なんですけど。寝かせ中のネタ多すぎです。





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