「ブルーのリボンでRockして☆」
ある晴れた日。
ヘルムートがひとり甲板で静寂を噛み締めていると、誰かに名を呼ばれた。
「ヘルム〜ト〜〜」
こんなに脳天気そうに彼の名を呼ぶ者は、今のところ一人しか思い当たらない。
振り返ると、軍主の少年が満面の笑みで駆け寄ってきた。
・・・・今日もトラブル襲来の予感。
「・・・何か用か」
精一杯無愛想な返事で近寄るなオーラを出してみるものの、やはり少年には効果はないようだ。いいもの手に入れたんだ〜、と少年はおもむろに、ヘルムートに何かを差し出した。受け取ると、それは上等のサテンでできた、鮮やかな青色のリボンだった。
「・・・いいもの?」
「そ!『ブルーリボン』って聞いたことあるでしょう?敵の攻撃を受けなくなるっていうスゴイ装備品だよ。さ!」
「『さ!』って・・・・まさかこれを私に装備しろと・・・・?」
「もちろん〜!だって僕のヘルムートがキズモノにでもされたらって思うといてもたってもいられなくて。ぜひにと思って手に入れてきたんだよ!」
「・・・・わかった・・・・・」
何かおそろしいセリフをさらりと言われたような気がするが、あえて聞かなかったことにして、ヘルムートはブルーリボンを装備することを承諾した。
「ええと・・・・こうか?」
とりあえず身体のどこかに着ければいいのだろうと、少年の装備しているバンダナのように額に巻こうとしたのだが。
「ちが〜〜う!!」
すごい勢いでダメ出しをされた。
「わかってないな〜、『リボン』なんだよっ?ここにこう、に決まってるでしょ〜!」
と、少年は自分の頭のてっぺん辺りでリボンを結ぶジェスチャーをして見せた。
少年の言う辺りに青いリボンを装備する自分を想像して、ヘルムートは軽いめまいを覚える。
「さあさあさあ!」
迫る少年には逆らえない。
耐えよう・・・これしきのこと・・・!と心の中で呟きながら、ヘルムートはリボンを結び上げる。
「この辺か・・・・? こうして・・・・と、・・・あ・・?」
「あー・・・・、タテ結びだね・・・・」
ちょうちょ結びのちょうちょの部分が見事にヘルムートの視界を覆っている。
「す、すまないが、自分ではちょっと上手く結べない・・・・」
もしかしたら、それを理由にリボン装備を断れるかもしれない。ほんのわずか、期待を持って言ってみると。
「それじゃ〜僕が結んであげる♪」
それはそれは嬉しそうに、少年は言った。しまった、どうやら逆効果だったようだ。
「ちょっとかがんで・・・ あ、それよりここに座ってよ」
少年が手を引いて、甲板に積んであった木箱にヘルムートを座らせた。
風で乱れていたヘルムートの髪を手櫛で整え、リボンをするりと絡ませる。
額の左上あたりで一度結ばれたが、なにかが気に入らなかったらしく、ほどいてまた結い上げる。そんなことを何度か繰り返しているので、ヘルムートは我慢していた溜息を吐き出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ・・・」
目の前に見えるのは、少年の腹。
別に見ていて面白いものではない。
しばらくかかるのか・・・と、目を閉じて大人しくしていると。
「・・・できたっ。これでいいかなー?」
どうやらやっと満足いく形の蝶結びになったらしい。
「うんうん、我ながらゲージュツテキなリボン結びだねっ。似合うよ〜v」
そんなわけあるか!とツッコんだところで、ムダな労力だ。
「・・・・それは、どうも・・・・・」
たぶんヘアバンド風になっているブルーリボンを、誰かに見られる前にさっさと部屋に帰りたいと思い、手短に話を済ませようとしたのだが。
「ん?お礼言ってくれるの?だったら・・・・」
俯いたままだったヘルムートの頬に手が添えられ、促されるままに顔を上げると、至近距離で目の前にあったのは少年の前髪で・・・・
ちゅ。
「────────ッ!!!」
「やったーっ!お礼いっただきーー!!」
これ以上ないほど心のこもらない言葉だけでは足りなかったらしい少年に、『お礼』を搾取された。
「どうして私がオマエに礼をしなきゃならないんだ────!!」
赤いバンダナと青いリボンがひらひらと追いつ追われつ。
《END》 ...2006.03.29
激しく今更でも、一度はネタにしないとブルーリボン。
タイトルはパステルユーミの「金のリボンでRockして」でしたー。
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