抱きついてキスして押し倒して。
僕が迫って大抵は勢いまかせだから、コトが終わった後のヘルムートは辛そうに
してることが多い。
ごめん、と僕が謝ると、大丈夫だと言って
「仕方ない・・・君はまだこど・・・・・若い、から・・・」
なんて言う。
これっぽっちも間違っていないから、反論もできない。
それがまた悔しくもあったりするんだけど。




「ねこじゃらし2」




その日も、最初はそんな感じだった。
ケヴィンさんの新作まんじゅう(かぼちゃ餡入り)を試食用にいっぱいもらったから、
おすそ分けしようと思ってヘルムートの部屋へ押し掛けて、二人で食べていた。
そのうちヘルムートが、口の端にあんこが付いてるとか言って顔を近づけてきたから、
衝動的にキスなんかしたくなっちゃって。
テーブルに肘をついたまま身を乗り出したら、微妙な位置になってた椅子の脚に
引っかかって・・・

がたん!
うわ!!
あっコラ!!

バランスを崩して、とっさにヘルムートの服を掴んじゃったから、二人して床に転がる
ことになっちゃった。

「・・・ったた・・・・・」
幸い少しぶつけたくらいで何ともなかったけど・・・・・また、やっちゃった・・・・。
どうしてこう、ヘルムートのことになるといつも突っ走っちゃうんだろう・・・・。
起きあがったヘルムートは、さすがに呆れ顔・・・に、見える・・・・。
ヘルムートまで巻き込んでしまって、反省しながらも情けない気持ちでいっぱいになって、

「ごめんなさい・・・・」

俯いたままで、思ったより小さな声になっちゃったから、聞こえなかったかも知れない。
反応を伺おうと顔を上げてみたら、体勢を立て直して壁にもたれたヘルムートが黙って
手招きしている。なんだろうと膝立ちで近付いていったら・・・・
「────うわ!」
腕を引っ張られて・・・・ヘルムートの膝のあいだ。
そのまま、ぎゅっと抱き締められた。

「ヘ、ヘルムート・・・・?」
こんなシチュエーションは初めてで、身体中が心臓になったみたいにドキドキする・・・・。
でも、バカみたいに急に高くなった体温がバレたら、また呆れられちゃうかも・・・・
そう思って、ドキドキしながらも身体を硬くしてじっとしていたら、

ヘルムートの手がふわっと髪に触れてきた。

静かに、優しく、髪を撫でてくれている。少しくすぐったいけれど・・・・気持ちいい。
もう片方の手は背中に回されていて、力が入っている感じはしないのに、ぎゅうっと
抱き締められている・・・
────確かな安心感。



宥められて、鎮められて。
痛いくらいだった心臓のドキドキが、少しずつ収まっていくのがわかる。

「・・・ヘル、ムート・・・・・」
僕の呟いた名前は、思いがけず吐息混じりで甘く響いた。
「・・・・ ────  ・・・・・」
ヘルムートも、僕の名を、耳元で囁く。

髪を撫でていた手が頬に滑り落ちて、促されるみたいに顔を上げたら、額にキスをされた。
ちゅ、と軽く触れるだけ。
すぐに離れて、ひと呼吸置いて、次は左の瞼。

右の目尻、  その下の頬、  もう一度額に。


ひとつずつ、 丁寧に、 繰り返されるキス。


始めは一回ずつ開けていた目を、やがてはもう閉じっぱなしで、次はどこにもらえるんだろうと。

一回ごとのキスの合間に、ヘルムートの左手は僕の髪をすくって落とす。

鼻先と、  唇と、  そして最後にもう一度額に。
目は閉じたままだったけれど、ふ、とヘルムートが笑った気配がした。
そしてまた、きゅ、と抱き締められて。

背に回された左手にそっと力がこめられる。
右手は髪を撫で、うなじをふわりとくすぐって、背中に降りていく。
それは、今まで味わったことのない感覚で────あんまり気持ち良くて、僕はそのまま
うっとりと目を閉じて眠ってしまいそうになった。











僕は軍主だし、この船の艦長だし、客観的には僕の方が立場が上みたいに見えるかも知れない。

・・・・・でも・・・・・





惚れた弱味その他いろいろ。

やっぱり、このひとにだけは、かなわない。






《END》 ...2005.12.23




 


前回アップのお題08が萌え足りなかったせいかうっかり手が滑りました。




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