何故自分なのだ、と。
少年に抱かれながら、ヘルムートは思う。
夜伽の相手ならば他にいくらでもいるだろうに。
夜毎とまでは言わないまでも、かなりの頻度で少年はヘルムートの部屋を訪れ、あるいは自分の部屋へ喚んだ。

ただの戯れと片付けるには、それはあまりにも。




「片恋 〜 White Cage」




先ずは軽いキスを、そしてそのまま寝台へと倒れ込む。
前戯などという悠長な行為が、若さを抑えきれない少年に無縁なのはいつものことで、少年らしい性急な仕草で、その指が服の内側へ入り込んできた。
「・・・・っ・・・・・・」
声を抑えようとすると呼吸が止まり、さらに少年の口付けで唇を塞がれる。
「・・・・・・っは・・・・あぁ・・・・・」
息苦しさに思わず声が漏れ、わずかに眼を開けると、うっすらと涙で滲んだ視界に少年の瞳の海色だけが見えた。


・・・・気まぐれや戯れなどではないことなど、とうにわかっていた。
自分を見る少年の眼差しに含まれるもの・・・・・この少年は、自分に恋をしているのだと。
ヘルムートが男に恋情を抱かれるのは、初めてではない。
だが、たとえ相手が自分に向ける思いに気付いても、まったくそんな素振りを見せることはなく、また思いの丈を打ち明けた者は、ことごとく玉砕する羽目になるのが常だった。
少年の眼差しに気付いた時も、そうするつもりだった。
が、少しずつ距離を縮めてくる少年を、ヘルムートは拒むことができなかった。

何故だ、と自らに問い、そして答えを見つける前に、少年はヘルムートの唇を奪い、身体を求めてきた。
流されるままに少年の思いを受け止めながら、そもそも自分は拒める立場ではないのだからと言い訳のように自分を納得させようとする・・・



「・・・ヘル、ムート・・・・・」
少し上がった息で少年が名を呼ぶ、それは合図で、少年がヘルムートの内に身を進めてきた。
「・・・あ・・・・・ん・・・ッ・・・・・」
以前は苦痛でしかなかったそれも、今では快感すら伴ってヘルムートを喘がせる。馴らされてしまった身体に、少年がさらに刻印を残す。
少年の熱が身体の中で弾けると同時にヘルムートも頂点に達し、意識が空白に飲み込まれていく。

意識だけでなくいっそ身体もバラバラになって白い闇に溶けてしまえばいいと

思いながら・・・・・










「・・・・・・・・・・」
浅く短い眠りの後の重い身体を起こすと、隣で少年も目を覚ます気配がした。
眠たげに、それでも上体を起こして、少年はヘルムートに抱きついてきた。
少し高めの少年の体温が心地良かった。
そのまままた寝入ってしまいそうな少年を支えながら、ヘルムートは思う。
今の自分はクールークの軍人とはもう言えないだろう・・・。
だが、ユーラスティア号の一員と言い切ってしまうのも躊躇われた。
この船の居心地の良さに身を委ね切ってしまえないのは、故国への未練なのだろうか?

それとも・・・・・・


そう、恐れているのだ・・・・・・。



抱き締めてくる少年の背を抱き返し、その名を呼んでしまったら、身体だけでなく心まで全て少年のものになってしまいそうで。
それは正しいことなのか、間違ったことなのか・・・あるいは自分がそれを望んでいるのかどうかすら、ヘルムートにはわからなかった。
ただ、先の見えない白い霧のような迷いの中で、真摯な瞳で自分を求めてくる少年だけが確かな意志を持っているものだったから。

「・・・ヘルムート・・・・」
切なげにつぶやく少年の温もりを、今はただ、受け止めることしかできない。

何も返すことはできない。


今は、まだ・・・・ただ迷いの中で。






《END》 ...2005.01.07




 






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