・・・どうしてだろう?
幾度となく自分の内で問いを繰り返しても、少年には答えは一つも見つけられなかった。
なにしろ、その人に関する何もかもが、少年にとっては初めてのことだったから。
ラマダやケイトたちとは違う、生粋のクールークの人間であるその立場。
明らかに周囲の介入を遮ろうとするその空気。
・・・そして、そんなヘルムートをいつも気にしてしまう自分自身も。
・・・どうしてだろう?
気になりだしたら、もう抑えられない。
だが、疑問は増えるばかり。
頑ななくせに、キスをしても拒まない。身体を求めれば応えてくれる。
・・・・・・どうして・・・・?
「片恋」
こつ、こつ・・・
軍主の少年の部屋のドアが、控えめにノックされた。・・・名乗りはない。
「どうぞ」
少年が応えると、ドアを開けたのはやはりヘルムートだった。
「・・・来てくれたんだ・・・」
「後で行くと言ったからな・・・・・・」
静かにドアを閉めると、部屋を横切り、寝台に腰を下ろした。
少し動いた空気から、微かに石鹸の香りが届く。
「お風呂、入ってきたんだ?」
「ああ。今日は出撃もあったしな」
夕食後、シンプルなインテリアが気に入っているらしい部屋で本を読んでいたヘルムートを発見し、キスを仕掛けてその先を迫ると、この部屋では嫌だと拒まれた。
以前に祖父の部屋に似ていると言っていた。そこでキス以上の行為はできないと。
そうして、後で少年の部屋を訪れると約束した後、湯浴みをしてきたらしい。
そういう彼の潔癖さも、少年は好きだった。
・・・・好き・・・・・?
・・・そうだよね・・・。僕は、ヘルムートのことが好きなんだ。でも・・・・・・
座ったまま少年を待つヘルムートに屈み込み、キスを落とす。
いつもならそのまま、こらえきれなくなった少年が倒れ込んでコトにもつれこむのだが・・・
「どうして・・・・」
ふっと少年は身体を離した。切ないくらいに求めてはいても、やはり確かめずにはいられない。
「・・・こういうの、嫌じゃないの・・・?どうして断ったりしないで、僕を受け入れてくれるの・・・?」
ヘルムートは驚いた。何だって今更そんなことを聞いてくるのだ。
だが少年は真剣だった。見開かれた海色の瞳がヘルムートに答えを迫る。
「別に、嫌ではないから、ここにこうしているんだが・・・」
「でもそれは!」
戸惑いながらのヘルムートの答えを、少年は即座に否定した。
「義務だと思うから、付き合ってくれてるんでしょう?あなたの立場では、断れないから・・・・・!」
「・・・・・・」
何か言おうとするヘルムートを遮り、少年は苦しげに言葉をつなげる。
「わかってた・・・あなたの心がここにはないこと。皆とは違って、自分から望んでこの船に乗ったわけじゃないもの。
・・・だから余計に気になったのかもしれない・・・・」
うつむく少年の髪がさらりと落ちて表情を隠す。
「・・・でも・・・・初めてだったんだ・・・・ひとのこと、そんなふうに思ったの・・・・。
手に入れたい、自分のものにしたいだなんて・・・・」
いたたまれなくなったのか、少年はヘルムートの前に膝をつき、頭を垂れる。
それはまるで許しを乞うようで。
「言いたいことは、それだけか・・・・?」
寝台に腰掛けるヘルムートの膝に 縋りつくようにうずくまる少年の柔らかい髪にそっと触れると、微かに肩が震えた。
「私の心がここにないだなんて、心外なことを言ってくれる・・・・。確かに、迷うことも多いが・・・この船に乗ったこと、間違っていたとは思っていない」
少年が顔を上げた。その瞳に光が戻る。
「義務だけでは、こんなことに付き合ったりはしない。後で部屋に行くなんて、約束もしない・・・。」
海色の瞳に見つめられ、ヘルムートは思わず眼を伏せた。
「・・つまり ・・・、その ・・・・ 私も、お前のことが嫌いでは、 ない・・・ と、・・・・」
その言葉は途切れがちで、ストレートな言い回しではなかったけれど。
少年の「それ」が片恋ではなかったこと・・・・
それだけで、充分だった。
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「そのかわり私のことは、好きにしていただいて構わない」
膝を折りながらも、自らの命を差し出して部下の命の保証を求める敗軍の艦長と
その処遇を委ねられ、見下ろす勝者の少年。
・・・・強い眼だ・・・・
そう思ったのは、どちらだったか。
その海色の、そして紅玉随の瞳に惹き付けられたのが、・・・・全ての始まり。
《END》 ...2004.10.22
おかしいな・・・主ヘルのはずなんですけど・・・(またか)。
とりあえず幸せになりたいんです(私が)。なのでまずは両思いじゃないとダメです。
こんな感じでもうちょっと続くかも。
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