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一番幸せな





「バジャー、なんか今日・・・・ぼんやりしてる?」
図書館からの帰り道、本を抱えて隣を歩くバジャーを振り返りながら聞いてみた。
いつもと口数は同じくらいだった(つまりわりと少ない)けど、なんとなくそう思ったのだ。
「・・・うん、まあ・・・」
「やっぱり!」
たぶん他の仲間たちにはわからない、ほんの少しのいつもと違うところ。
自分にだけはわかるっていうのがオレには嬉しかったし、バジャーも「心臓がくすぐったい感じ、だけど・・・イヤな感じじゃない・・・かな」って言ってくれた。
自分だけわかる。わかってもらえてる。バジャーも他の皆が知らないオレのことを知ってる。秘密を共有する。独占欲を満たしてくれる。
「・・・クロウには、わかっちゃうんだよ、ね・・・」
そう言って、バジャーはほんの少し口元を緩ませるいつもの笑みを浮かべながら、よいしょ、と本を抱え直した。
図書館でオレがこれとこれとこれと・・・と棚から抜いてきた本は結構な量になってしまって、バジャーが半分手伝って持ってくれている。あと2冊借りればもう1冊おまけのキャンペーン中よ、ってお姉さんは言ってたけど、さすがにそんなにはいいよと苦笑しながら断ったのだ。
「ゆうべ見た夢のこと・・・思い出してた」
「夢?どんな?」
「うーん・・・あんまりはっきりとは思い出せないけど・・・」
バジャーは一番上の本の表紙を撫でながら、首を傾げてぽつぽつと話す。
「夢の中で・・・俺と、クロウと・・・」
「うん」
「・・・倉庫で、何か・・・見てた」
「ふーん、オレ、出てきたんだ」
なんだか嬉しくて心臓がドキンとなった。
「そのあと・・・・川・・・だったかな・・・?歩きながら、何か・・・話してて・・・目が、覚めた」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・いい夢・・・だったかな・・・、うん」

「・・・それだけ?」
ちょっと拍子抜けしてしまって、オレは気の抜けたような返事をしてしまった。
「・・・うん、そうだけど・・・・?」
「だってそれって、いつもと同じじゃないか」
倉庫でオークションの仕事をして、川沿いをブラブラ歩きながらとりとめのない話をして、そのあとエリーノースを歩いたり、市場に戻ってマリリンの店を覗いてみたり。
「・・・うん、いつもとおんなじこと・・・・」
本を抱えた腕に、ぎゅっと力が込められた、ような気がした。
「・・・クロウと、二人でいて・・・・いつもと同じなのが・・・嬉しい、から・・・・」
黒カラスになりきって屋根の上を走るのも楽しいし、オークションを仕切るクロウを見てるのも好きだし、みんなで「今日も上手くいったね!」って言うのも好きだけど、
「クロウと二人でこうしているのが、一番・・・好き・・・・かな」
「・・・────っ・・・」
それは何て殺し文句だろうか。
いつもより俯きがちに、さらに本の山で顔を隠してしまいそうに話すバジャーを抱き締めたくなった。オレも本を腕いっぱいに抱えていたけど、それを全部投げ出して強く強く、バジャーを抱き締めたかった。
・・・図書館の本にそんな無体はできなかったから、ぴったりと足を止めてバジャーを見つめることしかできなかったけれど。
「・・・クロウ?」
三歩くらい先に進んで、バジャーも足を止めて振り返った。
「バジャー・・・、オレ・・・・」
「クロウにも・・・伝わればいいのにな・・・。俺の、夢・・・と、見た時の、気分・・・」
「・・・・うん。見たいな、オレも。その夢」
バジャーと一緒に、夢の中でも。
一番幸せななんでもない日常の二人。



 



《END》 ... 2010/12/25
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