腕が伸びてきて、肩に両手がそっと添えられる。
軽く肩を掴んだその手は身体ごとバジャーを引き寄せた。
「ん・・・・・」
両腕がするりと背に回されて、広げた手のひらが上から下へと撫で下ろす。
「・・・バジャー」
囁く声が耳に届くのと同時にもたれかかってくるクロウの髪がさらりと頬に触れ、肩に、胸に、身体全体に、心地よい熱と重みが伝わってくる。
背中を撫でていた手にやがてそうっと、バジャーの息遣い、心音を確かめるようにそっ・・と力が込められ、抱き寄せる、と抱き締める、の中間くらいになる。
力を入れているようでいないようで。
それでも、すっぽりと包まれている確かさ。
伝わってくるのはクロウの想い。あくまで優しいその手の動きから伝わる想い。
とても大切にされている・・・。嬉しくて、心がくすぐったくて・・・・、・・・嬉しい。
バジャーは手探りでクロウの背にかかるマフラーを握り締めた。
そこから伝わる動きはとても僅かだと思うけれど、いつも前髪に半分隠れた表情を読み取ってくれるみたいに、ちゃんとクロウにはバジャーの気持ちが伝わっていると思うことができる。
その証拠に、ほら、腕に込められた力がちょっとだけ、強くなった。
「・・・好き、だ・・・・・」
そう呟いたのは、どっちが先だったんだろう。
「時々入荷する、ガラクタじゃない本物の骨董品の、像とかに・・・・似てる・・・?」
いつもクロウが自分を抱き締める時の扱い方をそう表現したら、クロウは心外だという風に唇を尖らせた。
「バカ・・・!そんなもんと同じなわけあるか・・・!バジャーの方がずっとずっと、何に比べたって一番大事に決まってるだろ・・・!」
そう言ってクロウは、いつもより力を込めて、服が伸びるんじゃないかと心配になるくらい背をぎゅっと掴んでバジャーを抱き締めた。
「お前、もっと自覚しろよ・・・!オレにどれだけ好かれてるのかさ・・・」
その力と口調はいつもと少し違っていて、好きだと告げる、抱き締めて思いを強くする・・・・その先の何かを予感させるものだった。優しさと、あと何か・・・、バジャーに向けられる強い気持ち。
「・・・ごめん、クロウ・・・・ごめん・・・」
わかってる、たぶん大丈夫、でも、もう少しだけ・・・、この心がふわふわするような優しさを感じていたかった。
《END》 ... 2010/04/11
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ラストはもっとラブコメっぽくなるはずだったのに、寸止めされてる可哀想なクロウさんの話になってしまいました。それにしても甘すぎて尻が痒い。 |